Web road Writer road

北山淳の小説投稿サイト(ブログ)です。

ソードアート・オンラインSSインタラクト・ソウル 第3章

 

 

      3

 

 

「これがゲート・ユニットかぁ」

 

「おぉー、世間の人たちより早く見れて感動です」

 

 里香と珪子はカプセルベッド型ハード《ゲートユニット》に夢中だ。俺たちはあのあと埼玉の桐ヶ谷家から大規模アミューズメント施設《アライアンス・ゲート》に移動した。

 

「それにしても……お兄ちゃん。なんで遠隔操作でロードできるのに、わざわざこんなとこまで来ないといけないの?」

 

 直葉は明日奈がAAOの稼動許可を彰三に取り付けたあと、明日奈からダイブする場所が指定されたことを何処か不満に思ったらしい。

 

 俺はなるべく当たり障りのないように説明する。

 

「それはだな、スグ。今回のダイブは長時間に及ぶ可能性が十分あるんだ。そこでAAOを稼動させるのを許可する代わりに長時間ダイブ想定型であるゲートユニットの作動動作サンプルを採ることが条件に出されたらしい」

 

「……そうなんだ」

 

 直葉は心ここに在らずな返答をする。どうやら納得はしてくれたようだが、本当に大丈夫だろうか。

 

「キリト君、準備完了よ」

 

 そうする間にも明日奈からOKサインが出る。俺は明日奈にびしっと親指を突き出した。

 

「よしっ、みんな定位置に着いてくれ」

 

 そして俺を含めて全員がゲートユニットの中に横になる。

 

 ゲートユニットの中はナーヴギアやアミュスフィアにあるようなLANケーブルの類が全て七つ鎮座するその中央で収束されサーバーに直接繋がっているので内部にそれらしきものは一切ない。あるのはクッション性が高そうな革地の座席。

 

 俺がどう操作したものだろうと頭を悩ませていると開いていたハッチが閉じて座席の背もたれが後方に倒れる。完全に閉じきると目の前が半透明化し幾つかの3Dウィンドウが表示された。  

 

 最初に表示されたのはロードするゲームの選択。既に数々のVRMMOタイトルがダウンロードされているらしくアイコンがやたらあるが、その中でAAOを選択。すると次はアカウントID入力のウィンドウに切り替わった。俺が持っているIDは一つしかないので迷わずALOのものを入力。ロード中の待機バーが一杯になり、ボイスコマンド入力待機画面に切り替わる。

 

「準備はいいな?」

 

「うん」

 

「いいよ」

 

「う、うん」

 

「大丈夫です」

 

「いいわ」

 

「じゃあ、行くぞ」

 

「「「「「「リンク・スタート!!」」」」」」

 

 

 背の高い石造りの搭と住宅街。そびえ立つ細かい彫刻の入った門。どこか西洋めいたデザインのフィールドは微かにアインクラッドの《はじまりの街》に似ている。

 

アスナ、ここって……」

 

「うん、《主界》―《マスターワールド》って名前っていうらしいよ。全ての世界の中心世界」

 

「つまり、この世界はAAOオリジナルのフィールドなんだな?」

 

「そうみたい。で、ここが第一フロア《アミュセント》だよ……ってキリト君っ!?」

 

 アスナは急に大きな声を上げる。

 

「なんだよ、いきなり……」

 

「き、キリト君……それって……」

 

 アスナは小刻みに震えながら俺を指差した。

 

「……俺の顔に何かついてるのか?」

 

「いいから、後ろ見てっ!!」

 

「後ろって何もないだろ。せいぜい、ガラス窓に映る俺……っ!?」

 

 驚愕した。俺はいつものスプリガンキリトではない。黒の古ぼけたコートには見覚えがある。何より顔。現実そのままの桐ヶ谷和人の顔。つまり……

 

「SAOのときの……俺じゃないかっ!?」

 

  思わず顔のあちこちを触ってしまう。……ちょっと待て。たぶん俺だけSAO時代の姿な訳ではないだろう。

 

 俺は即座にアスナに振り向く。期待……いや、予想通りの姿。

 

「うわぁ……」

 

 俺が目を輝かせるとアスナは恥ずかしそうに腕を抱えた。

 

「あんまり見ないで。恥ずかしいよ」

 

 白と赤の《KoB装備》。やっぱりアスナはこれが一番似合ってると俺は思う。

 

「ほらほら、見せつけないでくれるかなぁ」

 

「お兄ちゃんもっ……、ほら!!」

 

「あああ……」

 

 俺とアスナはリズベットとリーファによってあっさり引き離される。

 

「しっかし、なんであの頃アバターに戻ってるわけ?」

 

 リズベットは手を腰に添える。

 

「でも、またキリトさんの《黒の剣士》姿を見れて嬉しいです」

 

「シリカちゃんの言うとおりよ。あたし、お兄ちゃんがSAOでどんな感じだったか一回見てみたかったんだよね」

 

「コンナ感じです」

 

「それが噂の黒の剣士ね。……黒いわね」

 

「悪かったな、シノンって……お前もかっ!!」

 

 シノンはGGOの《ヘカートⅡ》を背中に吊った、あのシノンの姿をしていた。

 

「あ、そうか。シノンはGGOのアカウントでAAOにログインしたんだな?」

 

 するとシノンは眉を下ろし、否定的な眼差しで俺を見る。

 

「ちゃんとALOアカウントを選んだわよ。……皆と合わせたかったから」

 

「じゃあ、なんで……?」

 

 SAOにいたメンバーの姿が戻り、ALOのアカウントでログインしたはずのシノンはGGOのシノンになっている。

 

 ふと思いついてリーファを見たのだが、やっぱりいつものポニーテールシルフの姿である。

 

 ――何故こんなことが起きる?

 

「多分、AAOの基幹プログラムが不安定なんだと思う」

 

「うーん、こんなことが起きちゃうもののか?」

 

「それは……」

 

 アスナも俺も言葉に詰まる。

 

「まあ、考えてもしょうがないわよ」

 

「リズ……そうだな。俺たちの目的はどこかにいる事件の黒幕を見つけ出すことだ」

 

「うん、そうだね。リズの言うとおりだよ」

 

 アスナも頷いた。

 

「じゃあアスナ、まずは何処の世界から行く?」

 

「えっと、そうね……。わたし、GGOってどんな世界なのか気になるのよね」

 

 俺はシノンのほうを見てふっと笑って見せる。

 

「シノンの本領発揮だな」

 

「なっ……、そ、そうね。キリト以外は私が守るわ」

 

「そりゃ、ないだろ!?」

 

「あら、ひたすら脳筋のあんたは銃弾を真っ二つにできるくらいなんだからいいんじゃなくて?」

 

「それもそうだ。……い、いやっ、それはもう過去の話だからな!!」

 

 俺は必死に否定し、シノンはしれっと受け流す。そんな言い合いがツボに入ったのか、リズベットと》シリカは一斉に吹き出す。

 

「あははっ、あんたたち変なところで息が合うよね」

 

「あははっ……キリトさんとシノンさん面白すぎですっ」

 

「うふふっ」

 

 アスナにまで笑われる始末。

 

「ホント、お笑いコンビ組んだら?」

 

「「絶対、組まないっ!!」」

 

「息ぴったりじゃない」

 

「「じゃないっ!!」」

 

 更に笑いが湧き上がってしまった。これはなかなかどうしてこの状況から抜け出せというものか。

 

「……シノン、行くか」

 

「……うん…」

 

 俺とシノンがやむを得ず戦線離脱をはかり歩き始めると、若干にやつきながら皆が後ろをついて来る格好になった。

 

 ふと、シリカが歩みを止めて俺に声をかけてくる。

 

「あ、キリトさん、GGOへはどうやって行くんですか?」

 

「あ」

 

「その様子じゃ、何も考えてなかったわね」

 

 シノンの鋭い指摘に俺は少々たじろいたが上辺をなんとか取り繕おうと必死の言い訳を試みる。

 

「いや、……その、ほ、ほら俺たちにはユイがいるだろ?」

 

「じゃあ、さっさとユイちゃん呼んだら?」

 

「解ったよ……。ユイ?」

 

 俺の声に反応して空中で光が収束し、拡散すると小さな妖精が現れた。無論、ユイだ。

 

「もう、凄く遅いです。パパが呼んでくれないと私は出てこれないんですからね」

 

 ユイはいつもの小さな妖精、《ナビゲーションピクシー》の姿である。どうやら、ユイはシステムの不安定さに影響されてないようだ。

 

「すまん。早速で悪いが、GGOへの行き方を調べてくるか?」

 

「……」

 

 ユイは半眼になり、しばらくしてから覚醒する。

 

「ここから南東にある大門がGGOに繋がるワープゲートになっているようですね」

 

「なるほどな。ありがとう、ユイ」

 

  俺はユイの小さな頭を人差し指で軽くつつく。ユイはくすぐったかったようで、人差し指から逃れるように俺の頭に乗っかった。

 

「パパの頭はやっぱりこっちのほうがいいです」

 

「そ、そうか?」

 

「……ああっ!!」

 

 いきなりアスナが声を上げる。

 

アスナ、今日はよく声を上げるなぁ」

 

「う、……ごめんなさい。さっきのことユイちゃんに訊いてみたらどうかな?」

 

「さっきのこと、とは……?」

 

 ユイは、はて? と首を傾げた。俺は頷いて続ける。

 

「俺たちがSAOのときの姿なのはどうしてなのかって話がさっきあってさ。ユイなら何か解るかもって思ったんだ」

 

「解りました。ちょっと待ってくださいね、パパ」

 

  またユイは半眼になる。再び覚醒。

 

「このアライアンス・オンラインでの姿は、《主界》では使用しているハードに挿しているローカルメモリにある一番古いVRMMOのキャラクターデータが優先的に適用されるようですね。つまり、AAO内では任意のキャラクターを使用できるということです。パパ、メインメニューウィンドウを開いて一番下にあるボタンを見てみてください」

 

 俺は言われるがままに左手を縦に振り、メインメニューの一番下に目を落とす。するとALOにはない《Character-Style》なるものが存在していた。 「キャラクター……スタイル……?」

 

「そこを押してみてください」

 

 ボタンを押すと新たなウィンドウが展開する。上からSAO、ALO、GGOのキャラクターデータと各種パラメータが表示されている。

 

 試しにALOものをタップ。

 

「おおっ!!」

 

 俺の姿は瞬く間に黒ずくめスプリガンへと姿を変えた。

 

「……でも、ユイ。俺が今持ってるアカウントは一つだけなのに、キャラクターデータが三つもあるぞ?」

 

「キャラクターデータに関してはアカウントではなく各ゲームで行ったセーブデータを元としています。パパのデータにGGOのものまで存在するのはそのためですね」

 

 ユイは続ける。

 

「あとALO、GGOなどの他のVRMMOでは自動的にその世界に準じた姿になります。こちらはゲームバランス保全の為、任意でのキャラクター変更ができないみたいです」

 

 アスナは「うーん」と唸る。

 

「コンバートしなくても世界を行き来できる……そういうことだったんだね……」

 

「ああ、そういうことだったんだな。確かにALOにGGOのアバターで乗り込まれたら、空中飛んでても打ち落とされちゃうからな。ゲームバランスが崩壊しちゃうよな」

 

「はい、パパの言う通りです。あと、アイテムなどはそれぞれの世界の類似品に変換されるので実質消えません。コンバートに近いですが、コンバートの場合は持ちアイテムが消失してしまうので少し違います。疑似、と言ったところでしょうか。AAOは《自動疑似コンバートシステム》を実装していることから《全VRMMO統合型VRMMO》と言われているようです。ソードスキルなどのシステム的なものはAAO及び対応するフィールドでのみ使用可能なようですね」

 

「なるほどな」

 

「へぇ。……でも、お兄ちゃん。SAOのアカウント消してなかったんだ。ALOでは皆みたいに元の姿に戻らなかったくせに」

 

「ああ……いや、《SAOの剣士キリト》の役目はもう終わったけどさ。あそこは俺の原点だし、良くも悪くも思い出の場所だから別メモリに残してあったんだよ」

 

「キリト君……」

 

「キリト……」

 

「キリトさん……」

 

 アスナとリズベットとシリカがうるうるした目で見つめてくる。

 

 なんだか、無性に照れくさい。

 

「……って、私たちまた何か忘れてるでしょ」

 

「……あ」

 

 シノンの指摘は最もだ。こんなところで油を売っている場合ではない。

 

「あははっ、……そうだった……ん?」

 

 俺は不意に地面に刻まれたファンタジーとかの世界で言う魔法陣のような紋章が目に留まる。不思議とやけに気になって、俺はそれを見入った。

 

「どうしたのよ?」

 

「い、いや……なんでもない」

 

「しっかりしてよ。ほら南東の大門に行くんでしょ」

 

「はい……」

 

 しゅんとする俺を見てリーファは苦笑いを浮かべている。

 

「お兄ちゃん、シノンさんに完全に調教されてるね……」

 

「う、うるさいなぁっ……」

 

「ほら、つべこべ言わない!」

 

「はい……っ」

 

 全員苦笑の中、俺たちはGGOに繋がる南東の大門を目指して歩き始めた。

 

 

     ***

 

 

 とある神殿の中。縦に規則正しく並んだラインの入った柱の隙間から漏れ出す光が何者かの影を細長く伸ばしている。

 

「どうだ、調子は」

 

「うん。今のところ問題はないよ」

 

「そうか……」

 

「今は各VRMMOのプログラムデータを書き換えてるんだ。これがなかなか難しくて、進み具合があまり早いとは言えないな」

 

 一人は苦笑を滲ませる。そんな相方を見てか、もう一人はクスッと笑った。

 

「これが成功すればきっと喜んでくれるだろう」

 

 一方が頷く。

 

「そのためには色々と邪魔な奴らが入り込んじゃってるみたいだけど」

 

 モニターに映っているのは黒服の少年とその仲間が数人。

 

「来たか、黒の剣士……そして閃光」

 

「AAOを使ったってことだよね。やっぱり完成してたかぁ」

 

「まあ、いいさ。奴らがここに辿り着く頃には全てが終わっているんだから……」

 

 

     ***

 

 

「パパ、これがGGOに繋がるワープゲートです」

 

「ここかぁ」

 

 しばらくユイの先導で南東に歩いた俺たちは街を囲む巨大な塀にせり出した、これまた巨大な大門の前に立っていた。

 

 大門はGGOの世界観を模しているようで、門自体も鉄でできていて門の壁画には銃のレリーフがあしらわれている。

 

「うーん。……雰囲気あるねぇ」

 

 リーファがボソッと呟く。

 

「本当だねぇ」

 

 アスナも同意。俺を含めて見たことのないものにはどうしても見入ってしまうが、このまま足を止めているわけにはいかない。

 

 俺は拳をギュッと握りしめた。

 

「キリトさん、張り切ってますね!」

 

「そうかな……?」

 

「そうよ。いっつも揺り籠の中で、気持ちよさそうにすやすや寝てるじゃない。平和ボケしてるのよ、平和ボケ」

 

「いや、リズ。それは生物的な生理現象でだな……」

 

「はいはい、お兄ちゃん。脱線しなーい」

 

「スグっ……うぅ」

 

 俺渾身の言い訳がリーファによって阻止されてしまう。

 

「キリト君、早く行こうよ」

 

「ああ」

 

 俺はユイに目を向ける。 ユイはこくんと頷くと俺の頭の上から肩に降り立った。

 

「では皆さん全員で門を押してください。そうすればワープゲートが起動するはずです。あとワープゲートを使い、他のVRMMOに移動するとき、わたしはデータ処理されて体を一旦消滅させます。また何かあれば呼んでくださいね、パパ」

 

「解った。またあとで会おうな、ユイ」

 

「はいっ!」

 

 ユイは寂しいそうにしながらも満面の笑みを見せた。

 

「よし。いいな? 行くぞ」

 

 指示に皆が頷く。そして全員が片手を門に触れさせ、力を込めた。すると門の中央の割れ目から白い光がこぼれ、やがて俺たちを包み込んだ。

 

 砂埃が立ち込め、なんとなく、鉄臭さが鼻に触る。景色はまさに銃撃が飛び交うような戦場そのもの。

 

 以前、死銃事件で訪れて以来の景色に一抹の懐かしさを感じる。ただ以前と違うのは混み合うほどの人集りがないなんとも言えない静けさが漂っていることだ。

 

「また来ちゃったな……」

 

「あら、私はまたキリトに来てもらう予定だったわよ。《BoB》のために」

 

「俺を呼ぶ理由はそれ以外ないんですか、シノンさん」

 

 シノンは先ほどの姿からそのまま変わらず移動したようだ。考えてみればGGOアバターでGGOに来ているのだから変わらなくて当然である。

 

「となると俺はやっぱり……」

 

 俺はアイテムストレージから手鏡を取り出して自分の顔を見てみる。

 

「やっぱりそうなるか……」

 

 予想通りの少女めいた顔。長い黒髪がそれをより際立たせる。

 

 この容姿のせいで色々と誤解されたものだ。特にライフルを背中に吊った、目の前の少女に。

 

「お兄ちゃん……だよね……?」

 

「スグ……か?」

 

 リーファは普段のポニーテールシルフの姿ではなく、偶然にも現実世界の直葉に酷似した黒髪ショートヘアの凛とした容姿に変貌していた。

 

「おぉ……、スグは現実世界とそっくりだなぁ」

 

「お兄ちゃんはなんか本格的に女の子みたいだね」

 

「うっ……」

 

「わたしもモニター越しで見たときキリト君の名前が表示されたのが、この子だったときは目を疑ったわよ」

 

 不意に横から聞こえてくる声。俺はその人物にそれとなく訊ねてみる。

 

「えっと……、アスナ?」

 

「うん、正解っ」

 

  アスナは見た目の可憐さは変わらないが、現実世界の明日奈とは似ても似つかない青に近い長い髪を片方に一房下げた姿をしている。髪の色だけで言えばALOの水妖精族アスナに近い。

 

「なんか雰囲気変わったなぁ」

 

「しょうがないわよ。基本的にコンバートしたのと変わらないんだから」

 

「それもそうか。じゃあ勿論、リズとシリカも……って、あれ?」

 

 俺は思わず首を傾げる。

 

「何よっ!」

 

「な、なんですか!? キリトさんっ!!」

 

「いや、二人はあんま変わってないなって」

 

「いや、十分過ぎるほどの変貌ぶりだと思うけどなぁ。ねぇ……シリカ?」

 

「はい。これで気づかないなんてキリトさん見損なっちゃいます」

 

「う、うん……。しっかし……どう見てもあまり変わってな………、あっ!」

 

 俺はようやくリズベットたちの違いに気がついた。確かに二人はいつもとまるで違う。ある意味正反対。どうやらいつもと髪型が逆になっているようだ。つまりリズベットがツインテールで、シリカがピンクなふわふわショートヘア。

 

「むぅ…。こういうことってあるんだな」

 

「あたしとしては、ひたすらややこしいんだけどね」

 

「なんか、リズさんが自分に見えてくるから怖いです」

 

「まあ、そのうち馴れるさ」

 

  後ろで抗議しようとするリズベットたちを無視して、俺はアスナに話しかける。

 

アスナ、どうする?」

 

「そうだね……。この広いGGOのフィールドを皆で一つ一つ探したら効率悪いよね」

 

「じゃあ何人かのパーティーに分かれて探すのはどうかな。そのほうが効率はいいはずだ」

 

「解った」

 

 アスナは頷く。

 

「それじゃ皆、六人いるんだから……二人一組になってれ。ここからは手分けして探そう」

 

 俺の指示で全員二人一組のパーティーに分かれる。それぞれ俺とリーファ、アスナとシノン、リズベットとシリカという組み合わせになった。そして一時間後に通りの奥にあるモニュメントの前に戻ってくること、もし何かあったらフレンドコールをとばすことを約束して別れたのだった。

 

 それから三十分。現在、俺とリーファは狭い路地裏でひたすらに迷っていた。

 

「お兄ちゃんが、こっちであってるって言うからぁ」

 

「いや……、スグだってこっちだと思うって言ってただろ」

 

「うぅぅ……っ」

 

 リーファは唸りながらこっちを睨みつけてくる。流石にこのままではキツいので早々に謝っておこうと頭を下げかけた、そのとき。

 

「むぅ……ち、ちょっと待て、スグ」

 

「……なに、お兄ちゃん?」

 

「ほら、あそこ」

 

「え?」

 

「ほら、あの紋章っていうか……魔法陣みたいなやつ」

 

「え……? アレがどうかしたの?」

 

  リーファはわけが解らないというふうに顔を傾ける。

 

「アレとそっくりなのがアミュセントにもあったんだよ」

 

「それってシステム的に普通に存在しているものなんじゃないの?」

 

「システム的に存在することはそうなんだろうけど……、でも俺はGGOで魔法陣みたいなのを見たこと一度もないしな」

 

「お兄ちゃんがALOに再コンバートしたあとに何かのアップデートがあったとかは?」

 

「うーん。じゃあ、GGOみたいな銃でどんぱちやるVRMMOにこんなファンタジックなものが普通あると思うか?」

 

「……ないね」

 

 リーファは苦笑いを浮かべ考える素振りで唸りだした。

 

 何故GGOに魔法陣が出現したか。本当に管理者側の公式アップデートなのか?それとも外部の誰かが……外部?  その言葉には聞き覚えがある。そうユイが……

 

『…どちらにせよ、外部からの犯行とみて間違いないです』

 

 ……そうか。なるほどな。となると何故こんなものを設置する必要性がある?

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

「す、スグっ!?」

 

 急に大声を出したリーファは憤慨している。

 

「お兄ちゃんっ? あたし、さっきから呼んでたんだからねっ!」

 

「ああ……悪い。少し考え事してて」

 

 リーファはふぅと息を吐いた。

 

「で、何を考えてたの?」

 

「ああ、もしかしたら俺たちが思ってるほど甘くないかもしれないぜ。この事件」

 

 途端にリーファは真剣な顔になって俺を見る。

 

「ど、どういう意味……?」

 

「推測だけど、ヤツらはもう俺たちがAAOを介してこのフィールドに入り込んだことに気づいているはずだ。現在どこの座標にいるかまでばっちりな。この魔法陣が存在するのがその証拠と言っていい」

 

「……っ!? ど、どうやって……?」

 

「考えられるのはGM権限の行使ってところだろう。多分、大概のシステムはもう掌握済みなんだろうな」

 

「ど、どどどうするのっ?」

 

「まあ、落ち着け。如何にGM権限といえどもプログラム上のオブジェクトを改変するにはシステムコンソールを使ってアクセスしなければならないはずだ。そしてシステムコンソールの座標位置は動かせない」

 

「ってことは……」

 

「そうだ。ヤツはシステムコンソールのある場所にいる。でも問題は……」

 

「コンソールの場所だね」

 

「ああ。……ユイ?」

 

 俺の視線の先にあった空いた椅子から小さな光が集まり、さらに輝きを増していく。そして人型をかたどると地面に足が着いた。

 

「何かありましたか? パパ」  

 

 この世界でのユイの区分はおそらくNPCだ。まあ、だからと言ってどうというわけではないが。

 

「……これを見てくれ」  

 

 俺は頭を切り替えて真下にある魔法陣を指差す。  

 

 ユイはやや首を傾げたが、すぐにしゃがみ込み魔法陣に手を伸ばした。するといきなり魔法陣が光り出す。その直後。

 

「……っ!? きゃあああっ!!」  

 

 ユイの体は弾き飛ばされ、建物の外壁に打ちつけられる。  俺は思わず目を見開いて叫ぶ。

 

「ユイっ!!」 「ユイちゃんっ!!」  

 

 ユイはふらふらと後頭部を頻りにさすりながら外壁にもたれたかかった。

 

「大丈夫です。少し頭を打っただけですから」

 

「でも……そうだっ!!」  

 

 何を思い立ったかリーファはユイがさすっている部分に自分の手を重ねると、さすりながら古来から伝わる伝説の呪文を唱える。

 

「痛い、痛いの、飛んでけーっ!! ……よし。これで大丈夫よ、ユイちゃん」

 

「ありがとうございます。リーファさんのおかげで痛くないです」  

 

 ユイの痛みがあんなので本当に取れたのかはわからないが、頭をさすっていないところを見る限り痛みは取れているようだ。ダテに伝説なだけはある。

 

「ユイ、さっきのって……」

 

「あの魔法陣は何処かへ移動するためワープゲートだと思われます。システム的ロックがかかっていて深いところまで解析できなかったのでハッキングで解除しょうとしたのですが、システムに阻まれてしまって……」  

 

 それで弾き飛ばされたって訳か。

 

「ありがとうな。それだけでも貴重な情報だ。で……」

 

  俺は後ろのリーファを見やる。 「へぇ……!!」

 

「……スグ、そんな食いつくように見なくても」  

 

 リーファは俺とユイに見向きもせず、魔法陣を眺めている。  

 

 元々、ギリシャ神話とかのファンタジーな世界とか昔話に興味があるのは俺も熟知しているが、そんなに見入るようなものなのだろうか。

 

「おーい、スグぅ」

 

「うわぁ……」  

 

 全く聞こえてない。

 

「スグ、もういいんじゃないか? ユイがそれは使えないって証明してくれたし」

 

「凄いなぁ…!!」  

 

 完全に自分だけの世界にフルダイブしている。

 

「おいっ! スグっ!!」  

 

 俺はリーファの肩を軽く叩く。  

 

 すると体制が不安定だったのか、リーファは勢い余って魔法陣の上にのけぞった。

 

「ちょっと、お兄ちゃん……っ!!」

 

「悪い悪い……、ってスグっ!!」

 

「ふぇ……?」  

 

 リーファの下敷きになっている魔法陣が更に輝きを増し、ゆっくりと回転し始めたではないか。ヤバい。嫌な予感がする。

 

「スグっ!! 魔法陣から離れろっ!!」

 

「ん……あっ……、駄目。腰が抜けちゃって立てないよ!」

 

「くそっ。ちょっと待ってろ!」  

 

 俺はリーファを抱え上げる。そして魔法陣から抜け出そうと地面に力一杯踏み込んだ――はずだった。

 

「……?」

 

 あれ? 踏み込んだ手応えがない。いや、地面がない。ついでに言うとここは空中ではない。ということは。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!? ま、マジでぇぇええ!!」

 

 魔法陣の中心から穴が、がっぽり開いて俺とリーファは真っ暗闇に真っ逆さま。

 

「ひゃっほーい!」

 

 一人、この状況を楽しんでいるヤツがいるが、そんな悠長にしている場合ではないと思う。何しろ超怖い。

 

「スグっ!!」

 

「お兄ちゃん、これはこれで楽しくない?」

 

「楽しくないっ!!」

 

「やっほー!! れっつ、バンジー!!」

 

「お、おお、お助けぇぇぇええ!!」  

 

 尚、楽しそうにするリーファを横目に、俺はそのまま闇の中に落ちていった。

 

 

〈続く〉