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ソードアート・オンラインSS インラタクト・ソウル 第1章

Sword Art Online SS Interact Soul 

 
 
 1
 

 俺――桐ヶ谷和人は、一睡もできずにそのまま朝を迎えてしまった。
 
 昨日は夜遅くまでALOでアスナ、リズベット、シリカ、クライン、エギル、リーファ、シノン、そしてユイのいつもの顔ぶれが揃い、大所帯でアインクラッド三十二層の迷宮区攻略イベントに挑戦した。何故そうなったかと言えばリズに俺の片手直剣を鍛えてもらうためであり、シノンの弓を造ってもらうためのレアインゴット獲得のためである。
 
 数ヵ月前、シノンはALOで新たなキャラクターを作成した。そこでシノンは種族は猫妖精族、武器は弓を選択したのは良かったがいつまでも初期装備なわけにもいかなかったのでリズに新たに造ってもらう約束をしていたらしい。そのときタイミングよく今回のイベントクエストの話が舞い込んできたのだ。俺は新しく剣が欲しくなってきたところだったので、『だったら俺の剣も……』と頼んでみると、一瞬呆れた表情をしたがアスナは『……キリト君たら……もうっ』と言いながらも首を縦に振ってくれた。
 
 早速、翌日に仲間を募って挑戦したのだが、イベントボスにかなり苦戦し、ギリギリのところで俺のシステム外スキル《剣技連携》を駆使しながら放った最後の一撃、単発重攻撃技《ヴォーパル・ストライク》が命中してなんとか倒したのだった。そしてレアインゴットといえば量が少な過ぎて辛うじてシノンの弓が造れる程度だったので俺の剣の話は無惨に散った。ユイは『パパが頑張ったおかげでシノンさんの弓が造れるんですよ。パパがいなかったらこのボスは倒せなかったです!』と励ましてくれたが、内心なかなかに寂しい思いをした。
 
 そのあと皆と別れ、俺はこうして自室のベッドに横になっているのだが、昨日は時間が過ぎた。ちょうど土曜日だったから良かったものの、これが平日の月曜日だったら学校なんて眠くて行けたもんじゃない。
 
 俺は気怠い体を起こして階段を降りていく。下では何やらガタガタ世話しなく音がしている。その音を鳴らす主は俺に気付くとにぃっと笑顔を見せた。
 
「あっ、お兄ちゃん、おはよう。朝ご飯もうすぐできるから」
 
「今日はスグの当番だっけ?」
 
「ううん。お母さん、仕事からまだ帰って来てないから」
 
「そうか。でも、お前だって昨日はイベントクエで遅くまでALOに行ってたからあまり寝てないだろ」
 
「大丈夫。なんか眠かったはずなんだけど全然寝つけなくて」
 
「それは俺も同意する」
 
 俺の妹、スグこと桐ヶ谷直葉は戸籍上は妹となっているが、実は従妹なのだ。それが原因でちょっと前には一悶着あったが、今は普通に生活している。
 
 直葉は料理をテーブルの上に置くと椅子に座る。
 
「早く食べようよ」
 
「うん」
 
 俺は直葉に促されて椅子に座る。
 
 テーブルの上にはトーストがすでに二枚用意され、コーンスープ、目玉焼きベーコン、ミニトマトにポテトサラダまである。朝にしてはなかなか充実したラインナップだ。
 
「でスグ。今日は日曜日だし、俺も暇だから出かけないか?」
 
「ほ、本当にっ!?」
 
 直葉はテーブルから身を乗り出し、目を輝かせる。その瞬間。
 
「あ、あああっ!! あちぢっ!!」
 
「ちょ、お前……っ!!」
 
 見ると直葉は乗り出した拍子にテーブルの上の食器に手を掛けたらしく、ごろんと一回転したカップから中のコーンスープが零れて右手に直撃していた。
 
「あっ、……うぇっ、ううう~~っ」
 
 直葉は熱かったのか、今にも泣き出しそうに顔を歪ませる。
 
「うっ。ちょっと待ってろ。今、水持ってくるから」
 
 俺は素早く冷蔵庫から氷をかき集めてボウルに詰め込み、水を入れて直葉にさっと差し出した。
 
「んっ……、あ、ありがとう、お兄ちゃん」
 
 氷でキンキンに冷えた水の中に手を突っ込んだまま直葉は尚も痛そうだが、多分このままにしておけば痛みは引いていくだろう。一応、少し心配だし一応病院に連れて行こうか。
 
「大丈夫か? 痛いだろうし、今日は出かけないで……」
 
「行くもんっ!!」
 
 と直葉は即断言した。
 
 しかし、今年で十六にもなるはずの妹からよもやそんな言葉が出るとは。
 
 俺は少々呆気に取られたが、また話を戻す。
 
「うーん、ならいいけど。……じゃあ、スグはどっか行きたいところとかある?」
 
「うんと……ね。あの最近できたばかりのアミューズメント施設あるじゃない? そこに行きたい……かなぁ」
 
 直葉が言うアミューズメント施設とは何処かのベンチャー企業がおよそ四億もの投資をして建てたという馬鹿でかいドーム型の建造物のことだろう。
 
 確かあそこには実験を兼ねてアレがあるはずだ。俺も見に行きたかったし。いい機会かな。
 
「うん。じゃあそこで決まりな。九時には家を出れる用意しといてくれよ」
 
「解った」
 
 直葉は大急ぎで片付け始める。
「あぁ、スグ。そんな急がなくても……」
 
 俺が忠告したときにはもう遅く、盛大な音を立てて食器が爆散する。
 
「ああああ……。どうしょう?」
 
「しょうがないヤツだなぁ。ちょっと待ってろよ。今、掃除機持ってくるから」
 
 俺が惨劇の後始末を済ませ、直葉が支度が終わった頃には時計の針が正午を指し示していた。
 
 
 
 
 
 
「ここが……」
 
「うん。まあ、大きいってことは知ってたんだけど――」
 
 目的地である大規模アミューズメント施設の前までやってきた俺たちはいきなり呆気に取られた。何故なら。
 
「――こんなに大きいなんて知らなかったよ……」
 
「ああ……、サイズ感が予想外すぎる」
 
 見た目、東京ドームにも見えるそれは見た目の話であってサイズの話ではない。大きさで言えば東京ドームの倍はある。側面の外装は全面ガラス張りで真新しい輝きを放っている。
 
 いつの間にこんなでかいものを……。
 
 しばらくそんな感じで立ち尽くしていたが、不意に何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 
「……ねぇ、ねぇったら……っ!!」
 心地の良い透き通る声。その時点で俺は百%確信した。かつてSAOで戦いのパートナーとし、妻とした俺の最も大切な人。
 
アスナっ!?」
アスナさんっ!?」
 
 俺と直葉が同時に振り向くと、やはりそこには見知った顔があった。
 
「なっ、何よっ!! いきなり」
 
 明日奈は俺たちがあまりに驚いたので、少し後退る。
 
「や、やあ、アスナ。いきなり声がしたからびっくりしたよ」
 
「さっきからずっと呼んでたんだけどね」
 
 明日奈は可愛らしい蝶ネクタイの付いたチェックのシャツに白いカーディガンを合わせて、ボトムに赤のプリーツスカートという格好をしていた。それはなんとなくあの頃の《KoB装備》にも似ていてとても似合っている。
 
 ファッションに疎い俺でさえ、その姿に思わず見とれてしまう。
 
「あの……アスナさん。今日はどうして……」
 
 直葉は何か言いたそうに口ごもり俺を見る。如何にも『アスナさんも誘ってたの?』という目だ。
 
「そ、そうだ。アスナ、今日はどうしてこんなところに来てるんだ!?」
 
「何、わたしがここに来たらそんなにヘンなの?」
 
 明日奈は心外そうに目を細める。
 
「いやいや、ヘンとかそういうことじゃなくってだな……」
 
「キリト君こそなんでここにいるのよ?」
 
 明日奈はじぃーと見つめてくる。そのはしばみ色の瞳は限りなく澄んでいて、とても綺麗だ。
 
 あまりにも明日奈が見つめてくるので若干言葉が覚束なくなりながらも返答する。
 
「えっと、お、俺は……スグがここに来てみたいっていうのもあってさ。アスナは?」
 
「あれ、もしかして知らない? このアミューズメント施設……《アライアンス・ゲート》はレクトが建てたものなの。今日はお父さんに頼まれ事をされてね」
 
 しばしの沈黙。
 
「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇええっ!?」」
 
 そして二人して大絶叫。
 
「ま、マジか……。彰三氏、やるな……」
 
 彰三氏というのは、つまるところアスナ、結城明日奈の父、結城彰三のことであり、大企業レクトの社長のことである。明日奈は「ふぅ」とため息吐く。
 
「わたしも、びっくりしちゃって。お父さん、珍しく張り切ってたんだけど……まさか…」
 
 そう言いながら明日奈は目の前のアライアンス・ゲートを見やる。
 
「でも、ここ話題性はあるだろ? 確かここにはアレがあるはずだ。……なんて言ったっけな……」
 
「《ザ・シード連結体》規格のVRMMO同時起動システム導入型VRMMO稼動実験、でしょ?」
 
「そっ、そうそう。そして稼動実験されているのが、《アライアンス・オンライン》――通称《AAO》なんだよな。言わば、唯一の全VRMMO統合型VRMMO。それが正式稼動すれば、アバターをそのままに能力値とかアイテムとかも引き継げるし、全世界が一つの世界になったVRMMOだからコンバートしなくても他のゲームのフィールドで遊べるんだぜ!? しかも、そのシステム上ならソードスキルとかが共通システム化するらしいし……」
 
 俺が興奮気味にまくし立てていると、直葉は俺を訝しむように咳払いした。冷たい目線が突き刺さる。
 
「もしかして、お兄ちゃん……あたしがここに行きたいって言ったときスンナリOKしたのって……」
 
「はい……。否定できません」
 
「もう……っ」
 
 直葉はそっぽを向いて唇を尖らせた。
 
 それを見ていた明日奈は苦笑いを浮かべている。
 
「スグ、機嫌直してくれよ。別にそれだけが目的だった訳じゃないんだ」
 
「別に怒ってないもん。……ただ、ちょっとムカついただけだもん」
 
「ごめんなさい……」
 
 俺は深々と頭を下げておく。
 
「……もういいから。あっ、そうだ。ずっと訊きたかったんだけどさ。《ザ・シード連結体》は今までも何度か聞いたことあったんだけど、そもそもの《ザ・シード》って一体なんのことなの?」
 
 そういや、スグには話してなかったな……。スグにも知っておいて貰ったほうがいいだろうし……ま、いい機会かな。
 
「《ザ・シード》っていうのは俺が茅場晶彦から受け取った圧縮プログラムパッケージなんだ」
 
 
 SAOから帰還したあと、俺は同じく現実に戻ってきているはずのアスナが戻らずにALOの世界樹に吊された巨大な鳥籠の中に幽閉されていることを知り、ALOの世界に飛び込んだ。そこで運よくリーファ――直葉と出会えたおかげで世界樹のある央都アルンまでなんとか行き着けた。そしてアスナを捕らえていた妖精王オベイロンこと須郷伸之を倒すことができたのは茅場晶彦がGM権限を行使させてくれたからこそなのだ。つまり、茅場はなんらかのロジックであの場所に存在していたのだ。そして茅場は俺に謎のファイルを寄越し、こう言った。『それは、世界の種子だ』と。
 
 あとから解ったことだが、それは《ザ・シード》という名を冠する末恐ろしいものだった。SAOサーバーを自律制御していた《カーディナル》システムを整理し、小規模なサーバーでも稼動できるようにダウンサイジングしただけではなく、その上を走るゲームコンポーネントの開発支援環境をもパッケージ化した。簡単に言えば、回線のそこそこ太いサーバーを用意し、パッケージをダウンロードして、3Dオブジェクトを設計、もしくは既存のものを配置し、プログラムを走らせば、それだけで世界が一つ誕生する訳だ。俺は悩んだ末、エギルにインターネット上でバラまいてもらうことにした。そして次々と新たな世界が誕生していったのだ。俺がシノンと出会ったGGO――ガンゲイル・オンラインもその一つだ。
 
 しかし《ザ・シード》規格のVRMMOはある共通システムが自動的に存在することになった。それがゲームのキャラクターデータを能力値そのままに別のゲームに移すことができる、コンバートという機能である。ただ、コンバートすると所持しているアイテムや金は消えてしまうので、また戻ってくる場合は誰か安心できる人にそれらを全て預けておかないと帰ってきたときものすごく寂しくなるが。
 
「――つまり《ザ・シード連結体》はコンバート機能を持つ《ザ・シード》規格のゲームの総称で……」
 
「《ザ・シード》は今のVRMMOの元……言わば、世界の種なんだね」
 
「そゆこと。まあ、ALOはまた別だけどな」
 
「確か、ALOはSAOのコピープログラム上で動いてるんだっけ?」
 
「おっ、よく知ってるなぁ」
 
「えへへ…」
 
 直葉は嬉しそうにはにかんだ。逆に今のややこしい説明でよく理解できたなと俺が感心させられる。
 
「そういやスグ、昨日は…」
 
 俺の言葉を遮るかのように急に左耳から激痛が走る。何者かに思いっきり耳を引っ張られたのだ。
 
 そして大体の予想はつく。
 
「いだだ……っ!! あ、アスナっ!!」
「いつまでそうやって話し込むつもり?」
 
「いだだっ、痛いから離して……っ!!」
 
 明日奈はずっと榧の外だったことに怒っているのか、一向に離してくれない。
 
 俺は悲しくもそのまま引きずられるように大規模アミューズメント施設、アライアンス・ゲートに入場することとなった。半ば強制的にアライアンス・ゲートの入場口を潜った俺はやっと解放された耳を撫でる。
 
「うぅ……」
 
 そんな俺には見向きもせず、明日奈はすたすたと俺の遥か前を歩く。
 
「なんか……、ごめんね。お兄ちゃん……」
 
「……いや、スグの所為じゃないよ。悪いのは俺だ」
 
「お兄ちゃん……」
 
 直葉は俺を慰めようとしてくれたが、なんとも言えない罪悪感が胸に広がる。
 
「……まぁ、折角来たしな。楽しもうぜ」
 
「うん」
 
 俺たちは二人並んで色々なアトラクションの間を歩いていく。
 
 入場したときは全く目に入らなかったが、ここには物凄い数のアトラクションが設置されていた。オーソドックスなメダルゲームやUFOキャッチャーから、カートレース用のトラックやバスケットコート、ボーリングなどが所狭しと隣接している。
 
「キリト君~~っ!! 遅いよぉ!!」
 
 少し離れた場所で明日奈が手を振っている。
 
 どうやら機嫌を直してくれたみたいだ。俺は少し安堵する。
 
「ああ、悪い悪い」
 
 俺と直葉は少し急ぎ足で明日奈の元へ駆けつける。
 
「キリト君、なんでさっきわたしが怒ったか、解る?」
 
「えっと……長話してアスナさんを長い間待たせたからでしょうか?」
 
 明日奈はぶんぶんと頭を振る。
 
「解ってるじゃない。……だったらわたしをあんまり待たせないでね」
 
「以後気をつけます……」
 
 明日奈は満足したのかニコッと笑顔を浮かべると、奥の無愛想な鉄の扉を指差した。
 
「じゃあ、行きましょ」
 
 明日奈は俺の腕を掴むと奥へと進んでいく。
 
「お、おいっ。どこに行くんだ!?」 
 
「い・い・と・こ・ろ」
 
「えぇっ!? ちょっとっ……!!」
 
「あ、お兄ちゃん待ってよぅ!!」
 
 追いかけてきた直葉が部屋に入ると明日奈は扉を閉めた。部屋の中は真っ暗。ただ、何かの音が聞こえてくるのだが、それに妙な既視感を覚えるのは何故だろうか。
 
「なあ、何も見えないぞ。アスナ
 
「あっ、ちょっと待ってて……」
 
 カチッと何かのスイッチが入る音がする。いきなり目の前が明るくなり思わず顔を片手で覆いながらも少し目を開き周りを見渡す。部屋は円形に広がっていてそこに存在する、これまた物凄い数のサーバー群に俺は言葉が出なかった。
 
 明日奈はふふっと笑うとこっちに向き直る。
 
「ここは仮想空間プログラミング室。……というかAAOサーバーだけで埋め尽くされてるから実質《AAOサーバー室》ってところね。そして、あそこにあるのが……」
 
「あのカプセルみたいなやつ……?」
 
 明日奈は部屋の中央を見て頷いた。
 
「うん。《ザ・シード連結体》規格のVRMMO同時起動システム導入型VRMMO《アライアンス・オンライン》と同時に開発された実験機《ゲートユニット》」
 
「実験機って、ナーヴギアとかアミュスフィアみたいなハードウェアってことか?」
 
「うん。VRMMOの長時間ダイブを想定してこの形になったらしいわ。医療用《メディキュボイド》と同サイズなのが難らしいけど」
 
「まあ、そうだろうな。こんなに大きなものを家庭用にするのは俺も賭けだと思うし……。でも、こんなものが開発されてたなんて初耳だなぁ」
 
「当然よ。まだ未公開だもの」
 
「えっ? それ、俺たちに見せても良かったのか?」
 
「お父さんは、桐ヶ谷君ならいいって」
 
「そうなのか? なら彰三氏に感謝だなぁ」
 
「ふふっ」
 
 《ゲートユニット》と冠せられたそれは、白を基調としたカプセル型の機械で側面には青色のラインが走っていて、その下に小さく《Gate-Unit》と刻まれている。それが中央に向けて七つも鎮座していた。
 
「おおー、凄……っ」
 
「だよなぁ」
 
 直葉もこれにはそれ以上言葉が出ないようだ。
 
 しかし、デザインも規模もこの前ユイ用に制作した《視聴覚双方向通信プローブ》システムとはレベルが違う。比較しても仕方がないのは確かだが。
 
「まあ、それはそうなんだけどね……」
 
 明日奈は苦笑する。
 
「……?」
 
「これ……ゲートユニットは抜きにしても、この部屋のサーバー群。一体いくらかかってると思う?」
 
「んー、五~六千万ぐらい?」
 
「ぶー。残念ながら不正解。正解は二億よ。に・お・くっ!!」
 
「「二億ぅ!?」」
 
 俺と直葉は揃って仰天する。逆にこれを聞いて驚かないほうが凄い。
 
「に、二億……か。そんだけあったら、まずユイ用PCパーツを替えたりとか、俺の据え置きPCを新型CPU搭載でハードディスクが5TBくらいの凄いやつにできるな……、あとはぁ……って二億もあればもっと贅沢できるのか……」
 
「お兄ちゃん……っ!!」
 
 振り向くと直葉はぎこちなく口元が引きつらせながら、俺を睨んでいた。
 
「あ、あはは……、悪い悪い。あー……でも確か、このアライアンス・ゲート自体に四億もかかってるんだよな?」
 
 俺は直葉から逃げ切るべく、明日奈に話題を振る。
 
「うん……そうだよ。具体的に言うとアライアンス・ゲートのアミューズメント設備を整えるのでもう四億かかっちゃってるから、更に二億かけて膨大なプログラムを許容できるサーバーを新設したらしくてね……」
 
 俺の頭の中でその莫大な額のお金と膨大過ぎるサーバー群が凄い勢いで積み重なっていく。二億のサーバー群にはどうしても本能的に羨ましいと感じずにはいられないが、二億もの額を投資した彰三氏もまた相当なギャンブラーだろう。
 
「ひえーっ、勇気あるなぁ、彰三氏……」
 
「お父さんは未来の先行投資だって言い張ってるけどね。ここは今はまだ情報だけで一般解放してないし、システムプログラム自体が大き過ぎてサーバーだけでこの部屋を丸ごと使っちゃってるから、この設備自体はレクトの研究員さんぐらいしか使ってないの」
 
「そう言えば……AAOは一般に情報公開されているのに、ゲートユニットはなんでまだ一般公開されていないんだ?」
 
「んー、ちょっとスペック調整に手間取ってたから延期されてたんだけど、無事に終わったらしいから来週には情報公開だけはされていると思うけど……。それがどうしたの?」
 
 俺はふふーんと鼻を鳴らす。
 
「じゃあ、一般客は俺とスグが一番乗りって訳だ」
 
「そうね」
 
 明日奈は複雑そうに笑う。
 
「お兄ちゃん、凄いねっ!!」
 
「そうだな。持つべきはレクトのご令嬢だなっ!!」
 
「もうっ!! キリト君っ!!」
 
 明日奈は珍しく膨れっ面になった。
 
「ぷっ、あははっ!!」
 
アスナさんったら……あはっ!!」
 
 俺たちは明日奈があんまりぷくーっと膨れるので堪えきれず笑ってしまう。
 
「もう……、キリト君も直葉ちゃんも……ふふっ!!」
 それから俺たちは笑いあった。
 
 俺も明日奈も直葉も腹を抱えて笑った。
 
 これから起こることなんて考えもしなかったのだ。
 
 全てのVRMMOの世界を飲み込む大事件が今まさに起きようとしていることを。
 
 
〈続く〉