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北山淳の小説投稿サイト(ブログ)です。

ソードアート・オンラインSSインタラクト・ソウル 第3章

 

 

      3

 

 

「これがゲート・ユニットかぁ」

 

「おぉー、世間の人たちより早く見れて感動です」

 

 里香と珪子はカプセルベッド型ハード《ゲートユニット》に夢中だ。俺たちはあのあと埼玉の桐ヶ谷家から大規模アミューズメント施設《アライアンス・ゲート》に移動した。

 

「それにしても……お兄ちゃん。なんで遠隔操作でロードできるのに、わざわざこんなとこまで来ないといけないの?」

 

 直葉は明日奈がAAOの稼動許可を彰三に取り付けたあと、明日奈からダイブする場所が指定されたことを何処か不満に思ったらしい。

 

 俺はなるべく当たり障りのないように説明する。

 

「それはだな、スグ。今回のダイブは長時間に及ぶ可能性が十分あるんだ。そこでAAOを稼動させるのを許可する代わりに長時間ダイブ想定型であるゲートユニットの作動動作サンプルを採ることが条件に出されたらしい」

 

「……そうなんだ」

 

 直葉は心ここに在らずな返答をする。どうやら納得はしてくれたようだが、本当に大丈夫だろうか。

 

「キリト君、準備完了よ」

 

 そうする間にも明日奈からOKサインが出る。俺は明日奈にびしっと親指を突き出した。

 

「よしっ、みんな定位置に着いてくれ」

 

 そして俺を含めて全員がゲートユニットの中に横になる。

 

 ゲートユニットの中はナーヴギアやアミュスフィアにあるようなLANケーブルの類が全て七つ鎮座するその中央で収束されサーバーに直接繋がっているので内部にそれらしきものは一切ない。あるのはクッション性が高そうな革地の座席。

 

 俺がどう操作したものだろうと頭を悩ませていると開いていたハッチが閉じて座席の背もたれが後方に倒れる。完全に閉じきると目の前が半透明化し幾つかの3Dウィンドウが表示された。  

 

 最初に表示されたのはロードするゲームの選択。既に数々のVRMMOタイトルがダウンロードされているらしくアイコンがやたらあるが、その中でAAOを選択。すると次はアカウントID入力のウィンドウに切り替わった。俺が持っているIDは一つしかないので迷わずALOのものを入力。ロード中の待機バーが一杯になり、ボイスコマンド入力待機画面に切り替わる。

 

「準備はいいな?」

 

「うん」

 

「いいよ」

 

「う、うん」

 

「大丈夫です」

 

「いいわ」

 

「じゃあ、行くぞ」

 

「「「「「「リンク・スタート!!」」」」」」

 

 

 背の高い石造りの搭と住宅街。そびえ立つ細かい彫刻の入った門。どこか西洋めいたデザインのフィールドは微かにアインクラッドの《はじまりの街》に似ている。

 

アスナ、ここって……」

 

「うん、《主界》―《マスターワールド》って名前っていうらしいよ。全ての世界の中心世界」

 

「つまり、この世界はAAOオリジナルのフィールドなんだな?」

 

「そうみたい。で、ここが第一フロア《アミュセント》だよ……ってキリト君っ!?」

 

 アスナは急に大きな声を上げる。

 

「なんだよ、いきなり……」

 

「き、キリト君……それって……」

 

 アスナは小刻みに震えながら俺を指差した。

 

「……俺の顔に何かついてるのか?」

 

「いいから、後ろ見てっ!!」

 

「後ろって何もないだろ。せいぜい、ガラス窓に映る俺……っ!?」

 

 驚愕した。俺はいつものスプリガンキリトではない。黒の古ぼけたコートには見覚えがある。何より顔。現実そのままの桐ヶ谷和人の顔。つまり……

 

「SAOのときの……俺じゃないかっ!?」

 

  思わず顔のあちこちを触ってしまう。……ちょっと待て。たぶん俺だけSAO時代の姿な訳ではないだろう。

 

 俺は即座にアスナに振り向く。期待……いや、予想通りの姿。

 

「うわぁ……」

 

 俺が目を輝かせるとアスナは恥ずかしそうに腕を抱えた。

 

「あんまり見ないで。恥ずかしいよ」

 

 白と赤の《KoB装備》。やっぱりアスナはこれが一番似合ってると俺は思う。

 

「ほらほら、見せつけないでくれるかなぁ」

 

「お兄ちゃんもっ……、ほら!!」

 

「あああ……」

 

 俺とアスナはリズベットとリーファによってあっさり引き離される。

 

「しっかし、なんであの頃アバターに戻ってるわけ?」

 

 リズベットは手を腰に添える。

 

「でも、またキリトさんの《黒の剣士》姿を見れて嬉しいです」

 

「シリカちゃんの言うとおりよ。あたし、お兄ちゃんがSAOでどんな感じだったか一回見てみたかったんだよね」

 

「コンナ感じです」

 

「それが噂の黒の剣士ね。……黒いわね」

 

「悪かったな、シノンって……お前もかっ!!」

 

 シノンはGGOの《ヘカートⅡ》を背中に吊った、あのシノンの姿をしていた。

 

「あ、そうか。シノンはGGOのアカウントでAAOにログインしたんだな?」

 

 するとシノンは眉を下ろし、否定的な眼差しで俺を見る。

 

「ちゃんとALOアカウントを選んだわよ。……皆と合わせたかったから」

 

「じゃあ、なんで……?」

 

 SAOにいたメンバーの姿が戻り、ALOのアカウントでログインしたはずのシノンはGGOのシノンになっている。

 

 ふと思いついてリーファを見たのだが、やっぱりいつものポニーテールシルフの姿である。

 

 ――何故こんなことが起きる?

 

「多分、AAOの基幹プログラムが不安定なんだと思う」

 

「うーん、こんなことが起きちゃうもののか?」

 

「それは……」

 

 アスナも俺も言葉に詰まる。

 

「まあ、考えてもしょうがないわよ」

 

「リズ……そうだな。俺たちの目的はどこかにいる事件の黒幕を見つけ出すことだ」

 

「うん、そうだね。リズの言うとおりだよ」

 

 アスナも頷いた。

 

「じゃあアスナ、まずは何処の世界から行く?」

 

「えっと、そうね……。わたし、GGOってどんな世界なのか気になるのよね」

 

 俺はシノンのほうを見てふっと笑って見せる。

 

「シノンの本領発揮だな」

 

「なっ……、そ、そうね。キリト以外は私が守るわ」

 

「そりゃ、ないだろ!?」

 

「あら、ひたすら脳筋のあんたは銃弾を真っ二つにできるくらいなんだからいいんじゃなくて?」

 

「それもそうだ。……い、いやっ、それはもう過去の話だからな!!」

 

 俺は必死に否定し、シノンはしれっと受け流す。そんな言い合いがツボに入ったのか、リズベットと》シリカは一斉に吹き出す。

 

「あははっ、あんたたち変なところで息が合うよね」

 

「あははっ……キリトさんとシノンさん面白すぎですっ」

 

「うふふっ」

 

 アスナにまで笑われる始末。

 

「ホント、お笑いコンビ組んだら?」

 

「「絶対、組まないっ!!」」

 

「息ぴったりじゃない」

 

「「じゃないっ!!」」

 

 更に笑いが湧き上がってしまった。これはなかなかどうしてこの状況から抜け出せというものか。

 

「……シノン、行くか」

 

「……うん…」

 

 俺とシノンがやむを得ず戦線離脱をはかり歩き始めると、若干にやつきながら皆が後ろをついて来る格好になった。

 

 ふと、シリカが歩みを止めて俺に声をかけてくる。

 

「あ、キリトさん、GGOへはどうやって行くんですか?」

 

「あ」

 

「その様子じゃ、何も考えてなかったわね」

 

 シノンの鋭い指摘に俺は少々たじろいたが上辺をなんとか取り繕おうと必死の言い訳を試みる。

 

「いや、……その、ほ、ほら俺たちにはユイがいるだろ?」

 

「じゃあ、さっさとユイちゃん呼んだら?」

 

「解ったよ……。ユイ?」

 

 俺の声に反応して空中で光が収束し、拡散すると小さな妖精が現れた。無論、ユイだ。

 

「もう、凄く遅いです。パパが呼んでくれないと私は出てこれないんですからね」

 

 ユイはいつもの小さな妖精、《ナビゲーションピクシー》の姿である。どうやら、ユイはシステムの不安定さに影響されてないようだ。

 

「すまん。早速で悪いが、GGOへの行き方を調べてくるか?」

 

「……」

 

 ユイは半眼になり、しばらくしてから覚醒する。

 

「ここから南東にある大門がGGOに繋がるワープゲートになっているようですね」

 

「なるほどな。ありがとう、ユイ」

 

  俺はユイの小さな頭を人差し指で軽くつつく。ユイはくすぐったかったようで、人差し指から逃れるように俺の頭に乗っかった。

 

「パパの頭はやっぱりこっちのほうがいいです」

 

「そ、そうか?」

 

「……ああっ!!」

 

 いきなりアスナが声を上げる。

 

アスナ、今日はよく声を上げるなぁ」

 

「う、……ごめんなさい。さっきのことユイちゃんに訊いてみたらどうかな?」

 

「さっきのこと、とは……?」

 

 ユイは、はて? と首を傾げた。俺は頷いて続ける。

 

「俺たちがSAOのときの姿なのはどうしてなのかって話がさっきあってさ。ユイなら何か解るかもって思ったんだ」

 

「解りました。ちょっと待ってくださいね、パパ」

 

  またユイは半眼になる。再び覚醒。

 

「このアライアンス・オンラインでの姿は、《主界》では使用しているハードに挿しているローカルメモリにある一番古いVRMMOのキャラクターデータが優先的に適用されるようですね。つまり、AAO内では任意のキャラクターを使用できるということです。パパ、メインメニューウィンドウを開いて一番下にあるボタンを見てみてください」

 

 俺は言われるがままに左手を縦に振り、メインメニューの一番下に目を落とす。するとALOにはない《Character-Style》なるものが存在していた。 「キャラクター……スタイル……?」

 

「そこを押してみてください」

 

 ボタンを押すと新たなウィンドウが展開する。上からSAO、ALO、GGOのキャラクターデータと各種パラメータが表示されている。

 

 試しにALOものをタップ。

 

「おおっ!!」

 

 俺の姿は瞬く間に黒ずくめスプリガンへと姿を変えた。

 

「……でも、ユイ。俺が今持ってるアカウントは一つだけなのに、キャラクターデータが三つもあるぞ?」

 

「キャラクターデータに関してはアカウントではなく各ゲームで行ったセーブデータを元としています。パパのデータにGGOのものまで存在するのはそのためですね」

 

 ユイは続ける。

 

「あとALO、GGOなどの他のVRMMOでは自動的にその世界に準じた姿になります。こちらはゲームバランス保全の為、任意でのキャラクター変更ができないみたいです」

 

 アスナは「うーん」と唸る。

 

「コンバートしなくても世界を行き来できる……そういうことだったんだね……」

 

「ああ、そういうことだったんだな。確かにALOにGGOのアバターで乗り込まれたら、空中飛んでても打ち落とされちゃうからな。ゲームバランスが崩壊しちゃうよな」

 

「はい、パパの言う通りです。あと、アイテムなどはそれぞれの世界の類似品に変換されるので実質消えません。コンバートに近いですが、コンバートの場合は持ちアイテムが消失してしまうので少し違います。疑似、と言ったところでしょうか。AAOは《自動疑似コンバートシステム》を実装していることから《全VRMMO統合型VRMMO》と言われているようです。ソードスキルなどのシステム的なものはAAO及び対応するフィールドでのみ使用可能なようですね」

 

「なるほどな」

 

「へぇ。……でも、お兄ちゃん。SAOのアカウント消してなかったんだ。ALOでは皆みたいに元の姿に戻らなかったくせに」

 

「ああ……いや、《SAOの剣士キリト》の役目はもう終わったけどさ。あそこは俺の原点だし、良くも悪くも思い出の場所だから別メモリに残してあったんだよ」

 

「キリト君……」

 

「キリト……」

 

「キリトさん……」

 

 アスナとリズベットとシリカがうるうるした目で見つめてくる。

 

 なんだか、無性に照れくさい。

 

「……って、私たちまた何か忘れてるでしょ」

 

「……あ」

 

 シノンの指摘は最もだ。こんなところで油を売っている場合ではない。

 

「あははっ、……そうだった……ん?」

 

 俺は不意に地面に刻まれたファンタジーとかの世界で言う魔法陣のような紋章が目に留まる。不思議とやけに気になって、俺はそれを見入った。

 

「どうしたのよ?」

 

「い、いや……なんでもない」

 

「しっかりしてよ。ほら南東の大門に行くんでしょ」

 

「はい……」

 

 しゅんとする俺を見てリーファは苦笑いを浮かべている。

 

「お兄ちゃん、シノンさんに完全に調教されてるね……」

 

「う、うるさいなぁっ……」

 

「ほら、つべこべ言わない!」

 

「はい……っ」

 

 全員苦笑の中、俺たちはGGOに繋がる南東の大門を目指して歩き始めた。

 

 

     ***

 

 

 とある神殿の中。縦に規則正しく並んだラインの入った柱の隙間から漏れ出す光が何者かの影を細長く伸ばしている。

 

「どうだ、調子は」

 

「うん。今のところ問題はないよ」

 

「そうか……」

 

「今は各VRMMOのプログラムデータを書き換えてるんだ。これがなかなか難しくて、進み具合があまり早いとは言えないな」

 

 一人は苦笑を滲ませる。そんな相方を見てか、もう一人はクスッと笑った。

 

「これが成功すればきっと喜んでくれるだろう」

 

 一方が頷く。

 

「そのためには色々と邪魔な奴らが入り込んじゃってるみたいだけど」

 

 モニターに映っているのは黒服の少年とその仲間が数人。

 

「来たか、黒の剣士……そして閃光」

 

「AAOを使ったってことだよね。やっぱり完成してたかぁ」

 

「まあ、いいさ。奴らがここに辿り着く頃には全てが終わっているんだから……」

 

 

     ***

 

 

「パパ、これがGGOに繋がるワープゲートです」

 

「ここかぁ」

 

 しばらくユイの先導で南東に歩いた俺たちは街を囲む巨大な塀にせり出した、これまた巨大な大門の前に立っていた。

 

 大門はGGOの世界観を模しているようで、門自体も鉄でできていて門の壁画には銃のレリーフがあしらわれている。

 

「うーん。……雰囲気あるねぇ」

 

 リーファがボソッと呟く。

 

「本当だねぇ」

 

 アスナも同意。俺を含めて見たことのないものにはどうしても見入ってしまうが、このまま足を止めているわけにはいかない。

 

 俺は拳をギュッと握りしめた。

 

「キリトさん、張り切ってますね!」

 

「そうかな……?」

 

「そうよ。いっつも揺り籠の中で、気持ちよさそうにすやすや寝てるじゃない。平和ボケしてるのよ、平和ボケ」

 

「いや、リズ。それは生物的な生理現象でだな……」

 

「はいはい、お兄ちゃん。脱線しなーい」

 

「スグっ……うぅ」

 

 俺渾身の言い訳がリーファによって阻止されてしまう。

 

「キリト君、早く行こうよ」

 

「ああ」

 

 俺はユイに目を向ける。 ユイはこくんと頷くと俺の頭の上から肩に降り立った。

 

「では皆さん全員で門を押してください。そうすればワープゲートが起動するはずです。あとワープゲートを使い、他のVRMMOに移動するとき、わたしはデータ処理されて体を一旦消滅させます。また何かあれば呼んでくださいね、パパ」

 

「解った。またあとで会おうな、ユイ」

 

「はいっ!」

 

 ユイは寂しいそうにしながらも満面の笑みを見せた。

 

「よし。いいな? 行くぞ」

 

 指示に皆が頷く。そして全員が片手を門に触れさせ、力を込めた。すると門の中央の割れ目から白い光がこぼれ、やがて俺たちを包み込んだ。

 

 砂埃が立ち込め、なんとなく、鉄臭さが鼻に触る。景色はまさに銃撃が飛び交うような戦場そのもの。

 

 以前、死銃事件で訪れて以来の景色に一抹の懐かしさを感じる。ただ以前と違うのは混み合うほどの人集りがないなんとも言えない静けさが漂っていることだ。

 

「また来ちゃったな……」

 

「あら、私はまたキリトに来てもらう予定だったわよ。《BoB》のために」

 

「俺を呼ぶ理由はそれ以外ないんですか、シノンさん」

 

 シノンは先ほどの姿からそのまま変わらず移動したようだ。考えてみればGGOアバターでGGOに来ているのだから変わらなくて当然である。

 

「となると俺はやっぱり……」

 

 俺はアイテムストレージから手鏡を取り出して自分の顔を見てみる。

 

「やっぱりそうなるか……」

 

 予想通りの少女めいた顔。長い黒髪がそれをより際立たせる。

 

 この容姿のせいで色々と誤解されたものだ。特にライフルを背中に吊った、目の前の少女に。

 

「お兄ちゃん……だよね……?」

 

「スグ……か?」

 

 リーファは普段のポニーテールシルフの姿ではなく、偶然にも現実世界の直葉に酷似した黒髪ショートヘアの凛とした容姿に変貌していた。

 

「おぉ……、スグは現実世界とそっくりだなぁ」

 

「お兄ちゃんはなんか本格的に女の子みたいだね」

 

「うっ……」

 

「わたしもモニター越しで見たときキリト君の名前が表示されたのが、この子だったときは目を疑ったわよ」

 

 不意に横から聞こえてくる声。俺はその人物にそれとなく訊ねてみる。

 

「えっと……、アスナ?」

 

「うん、正解っ」

 

  アスナは見た目の可憐さは変わらないが、現実世界の明日奈とは似ても似つかない青に近い長い髪を片方に一房下げた姿をしている。髪の色だけで言えばALOの水妖精族アスナに近い。

 

「なんか雰囲気変わったなぁ」

 

「しょうがないわよ。基本的にコンバートしたのと変わらないんだから」

 

「それもそうか。じゃあ勿論、リズとシリカも……って、あれ?」

 

 俺は思わず首を傾げる。

 

「何よっ!」

 

「な、なんですか!? キリトさんっ!!」

 

「いや、二人はあんま変わってないなって」

 

「いや、十分過ぎるほどの変貌ぶりだと思うけどなぁ。ねぇ……シリカ?」

 

「はい。これで気づかないなんてキリトさん見損なっちゃいます」

 

「う、うん……。しっかし……どう見てもあまり変わってな………、あっ!」

 

 俺はようやくリズベットたちの違いに気がついた。確かに二人はいつもとまるで違う。ある意味正反対。どうやらいつもと髪型が逆になっているようだ。つまりリズベットがツインテールで、シリカがピンクなふわふわショートヘア。

 

「むぅ…。こういうことってあるんだな」

 

「あたしとしては、ひたすらややこしいんだけどね」

 

「なんか、リズさんが自分に見えてくるから怖いです」

 

「まあ、そのうち馴れるさ」

 

  後ろで抗議しようとするリズベットたちを無視して、俺はアスナに話しかける。

 

アスナ、どうする?」

 

「そうだね……。この広いGGOのフィールドを皆で一つ一つ探したら効率悪いよね」

 

「じゃあ何人かのパーティーに分かれて探すのはどうかな。そのほうが効率はいいはずだ」

 

「解った」

 

 アスナは頷く。

 

「それじゃ皆、六人いるんだから……二人一組になってれ。ここからは手分けして探そう」

 

 俺の指示で全員二人一組のパーティーに分かれる。それぞれ俺とリーファ、アスナとシノン、リズベットとシリカという組み合わせになった。そして一時間後に通りの奥にあるモニュメントの前に戻ってくること、もし何かあったらフレンドコールをとばすことを約束して別れたのだった。

 

 それから三十分。現在、俺とリーファは狭い路地裏でひたすらに迷っていた。

 

「お兄ちゃんが、こっちであってるって言うからぁ」

 

「いや……、スグだってこっちだと思うって言ってただろ」

 

「うぅぅ……っ」

 

 リーファは唸りながらこっちを睨みつけてくる。流石にこのままではキツいので早々に謝っておこうと頭を下げかけた、そのとき。

 

「むぅ……ち、ちょっと待て、スグ」

 

「……なに、お兄ちゃん?」

 

「ほら、あそこ」

 

「え?」

 

「ほら、あの紋章っていうか……魔法陣みたいなやつ」

 

「え……? アレがどうかしたの?」

 

  リーファはわけが解らないというふうに顔を傾ける。

 

「アレとそっくりなのがアミュセントにもあったんだよ」

 

「それってシステム的に普通に存在しているものなんじゃないの?」

 

「システム的に存在することはそうなんだろうけど……、でも俺はGGOで魔法陣みたいなのを見たこと一度もないしな」

 

「お兄ちゃんがALOに再コンバートしたあとに何かのアップデートがあったとかは?」

 

「うーん。じゃあ、GGOみたいな銃でどんぱちやるVRMMOにこんなファンタジックなものが普通あると思うか?」

 

「……ないね」

 

 リーファは苦笑いを浮かべ考える素振りで唸りだした。

 

 何故GGOに魔法陣が出現したか。本当に管理者側の公式アップデートなのか?それとも外部の誰かが……外部?  その言葉には聞き覚えがある。そうユイが……

 

『…どちらにせよ、外部からの犯行とみて間違いないです』

 

 ……そうか。なるほどな。となると何故こんなものを設置する必要性がある?

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

「す、スグっ!?」

 

 急に大声を出したリーファは憤慨している。

 

「お兄ちゃんっ? あたし、さっきから呼んでたんだからねっ!」

 

「ああ……悪い。少し考え事してて」

 

 リーファはふぅと息を吐いた。

 

「で、何を考えてたの?」

 

「ああ、もしかしたら俺たちが思ってるほど甘くないかもしれないぜ。この事件」

 

 途端にリーファは真剣な顔になって俺を見る。

 

「ど、どういう意味……?」

 

「推測だけど、ヤツらはもう俺たちがAAOを介してこのフィールドに入り込んだことに気づいているはずだ。現在どこの座標にいるかまでばっちりな。この魔法陣が存在するのがその証拠と言っていい」

 

「……っ!? ど、どうやって……?」

 

「考えられるのはGM権限の行使ってところだろう。多分、大概のシステムはもう掌握済みなんだろうな」

 

「ど、どどどうするのっ?」

 

「まあ、落ち着け。如何にGM権限といえどもプログラム上のオブジェクトを改変するにはシステムコンソールを使ってアクセスしなければならないはずだ。そしてシステムコンソールの座標位置は動かせない」

 

「ってことは……」

 

「そうだ。ヤツはシステムコンソールのある場所にいる。でも問題は……」

 

「コンソールの場所だね」

 

「ああ。……ユイ?」

 

 俺の視線の先にあった空いた椅子から小さな光が集まり、さらに輝きを増していく。そして人型をかたどると地面に足が着いた。

 

「何かありましたか? パパ」  

 

 この世界でのユイの区分はおそらくNPCだ。まあ、だからと言ってどうというわけではないが。

 

「……これを見てくれ」  

 

 俺は頭を切り替えて真下にある魔法陣を指差す。  

 

 ユイはやや首を傾げたが、すぐにしゃがみ込み魔法陣に手を伸ばした。するといきなり魔法陣が光り出す。その直後。

 

「……っ!? きゃあああっ!!」  

 

 ユイの体は弾き飛ばされ、建物の外壁に打ちつけられる。  俺は思わず目を見開いて叫ぶ。

 

「ユイっ!!」 「ユイちゃんっ!!」  

 

 ユイはふらふらと後頭部を頻りにさすりながら外壁にもたれたかかった。

 

「大丈夫です。少し頭を打っただけですから」

 

「でも……そうだっ!!」  

 

 何を思い立ったかリーファはユイがさすっている部分に自分の手を重ねると、さすりながら古来から伝わる伝説の呪文を唱える。

 

「痛い、痛いの、飛んでけーっ!! ……よし。これで大丈夫よ、ユイちゃん」

 

「ありがとうございます。リーファさんのおかげで痛くないです」  

 

 ユイの痛みがあんなので本当に取れたのかはわからないが、頭をさすっていないところを見る限り痛みは取れているようだ。ダテに伝説なだけはある。

 

「ユイ、さっきのって……」

 

「あの魔法陣は何処かへ移動するためワープゲートだと思われます。システム的ロックがかかっていて深いところまで解析できなかったのでハッキングで解除しょうとしたのですが、システムに阻まれてしまって……」  

 

 それで弾き飛ばされたって訳か。

 

「ありがとうな。それだけでも貴重な情報だ。で……」

 

  俺は後ろのリーファを見やる。 「へぇ……!!」

 

「……スグ、そんな食いつくように見なくても」  

 

 リーファは俺とユイに見向きもせず、魔法陣を眺めている。  

 

 元々、ギリシャ神話とかのファンタジーな世界とか昔話に興味があるのは俺も熟知しているが、そんなに見入るようなものなのだろうか。

 

「おーい、スグぅ」

 

「うわぁ……」  

 

 全く聞こえてない。

 

「スグ、もういいんじゃないか? ユイがそれは使えないって証明してくれたし」

 

「凄いなぁ…!!」  

 

 完全に自分だけの世界にフルダイブしている。

 

「おいっ! スグっ!!」  

 

 俺はリーファの肩を軽く叩く。  

 

 すると体制が不安定だったのか、リーファは勢い余って魔法陣の上にのけぞった。

 

「ちょっと、お兄ちゃん……っ!!」

 

「悪い悪い……、ってスグっ!!」

 

「ふぇ……?」  

 

 リーファの下敷きになっている魔法陣が更に輝きを増し、ゆっくりと回転し始めたではないか。ヤバい。嫌な予感がする。

 

「スグっ!! 魔法陣から離れろっ!!」

 

「ん……あっ……、駄目。腰が抜けちゃって立てないよ!」

 

「くそっ。ちょっと待ってろ!」  

 

 俺はリーファを抱え上げる。そして魔法陣から抜け出そうと地面に力一杯踏み込んだ――はずだった。

 

「……?」

 

 あれ? 踏み込んだ手応えがない。いや、地面がない。ついでに言うとここは空中ではない。ということは。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!? ま、マジでぇぇええ!!」

 

 魔法陣の中心から穴が、がっぽり開いて俺とリーファは真っ暗闇に真っ逆さま。

 

「ひゃっほーい!」

 

 一人、この状況を楽しんでいるヤツがいるが、そんな悠長にしている場合ではないと思う。何しろ超怖い。

 

「スグっ!!」

 

「お兄ちゃん、これはこれで楽しくない?」

 

「楽しくないっ!!」

 

「やっほー!! れっつ、バンジー!!」

 

「お、おお、お助けぇぇぇええ!!」  

 

 尚、楽しそうにするリーファを横目に、俺はそのまま闇の中に落ちていった。

 

 

〈続く〉

ソードアート・オンラインSSインタラクト・ソウル 第2章

 
 
 2
 
 
「凄かったでしょ」
 
「直葉ちゃん、凄い上手なんだね」
 
「いや、ボーリングでアベレージ二百越えは反則だ」
 
「あとからなら幾らでも言えるんだよ、お兄ちゃん」
 
「ふふっ、キリト君、力み過ぎてすっごい滑ってたもんね」
 
「あっ、あの床がイレギュラーなんだよっ!!」
 
「お兄ちゃん、素直じゃないなぁー」
 
「うううっ、うるさいっ!!」
 
 俺たちは《AAOサーバー室》を出たあと、アライアンス・ゲート内でアトラクションを満喫していた。
 
 俺的にはスポーツチャンバラなんてアトラクションが一番楽しかった。あまりにも白熱し過ぎて凄い人数のギャラリーができていたことに全く気付くことができなかったのが災いし、ついソードスキルモーションを取ろうとしていた明日奈は顔を真っ赤にして全速力でその場から逃げ出してしまった。それには俺も直葉も笑ったものだ。
 
 そして最後にやったボーリングでは直葉が完全勝利を収め、俺は完全敗北に帰した。アベレージ差百以上。これほどの差を見せ付けられては文句の一つぐらい出てくるもんだ。
 
「むぅ……」
 
「お兄ちゃん、まだ根に持ってるの!?」
 
「キリト君ったら、未練たらし過ぎるのよ」
 
「だってさぁ……」
 
「だってじゃない」
 
 俺が言う前に明日奈に押し切られる。
 
「キリト君。二言は……ないよね?」
 
 明日奈は凄みのある剣幕で俺を睨む。
 
「う……、ないです」
 
 すると、明日奈はふっと引き下がってくれた。はっきり言ってこれは心臓に悪い。
 
「ねぇ、お兄ちゃん……」
 
「どうした? スグ」
 
 直葉は眉を寄せながらで携帯端末のディスプレイを向けてきた。俺は仰け反りながらもそれを見る。
 
「うぉ……っ」
 
 ディスプレイに映り出されていたのは現在時刻。
 
 いまの今まで時間なんて気にしていなかったが想像以上に時間が経っていたらしい。具体的には帰りの電車がもう終電しかない。
 
「そろそろここを出ないと帰れなくなっちゃうよ」
 
 直葉の言うことは最もだ。
 
 明日奈はクスッと笑うと「そうね」と続けた。
 
「それじゃ、今日はもう暗いし、お開きにしますか。わたしも夕飯に遅れてお母さん怒ってるんじゃないかと思うし」
 
「そうだな。今日はここまでにして、また来よう。まだ遊んでないところもあるしな」
 
「そうだね」
 
 直葉も大きく頷いた。
 
「それじゃあね。キリト君、直葉ちゃん」
 
 明日奈は手を振って闇の中に消えていく。一人で帰るのであろう明日奈の後ろ姿を見ると少し寂しそうにも見えてきて声をかけずにはいられなかった。
 
アスナっ! やっぱり一人じゃアレだし、送って行こうか?」
 
「ううん。今日はいいよ。家はここからすぐだから」
 
「そうか?」
 
「うん、ありがと。それじゃ、また明日」
 
 明日奈は笑顔を見せる。
 
「おう。また明日な」
 
 そのまま明日奈は手を振り、俺たちも振り返す。そして明日奈が見えなくなると俺は直葉に向いた。
 
「よしっ、帰るか」
 
「うん」
 
 俺たちは家に向かって歩き始める。見覚えのある店、見覚えのある住宅街。そうしたものが俺に昔のことを思い起こさせる。
 
「なあ、スグ?」
 
「なに? お兄ちゃん。改まって」
 
「いや、こうやって二人で歩いていると昔のこと思い出すなってさ……」
 
「そうだね」
 
「昔はよく手を繋いで家に帰ったよな」
 
「……」
 
 途端に直葉は押し黙った。
 
 もしかして、何かまずいことでも言ってしまっただろうか。相変わらず俺には対女性スキルが身に付いていないらしい。
 
「あ、俺……」「あのね……」
 
 なんとか弁解しようとしたのだが、直葉も何かを言おうとして口ごもってしまう。
 
 長い沈黙のあと直葉は立ち止まって俯き加減に口を開いた。
 
「……あのね、お兄ちゃん。手……また昔みたいに手繋いでよ」
 
「スグ」
 
「ふぇ……? ……っ!!」
 
 そう言う直葉の手を俺は迷わず握った。なんで握ってしまったのか考えても理由は出てこないが、ただ、そうするのが一番いいと思ったのだ。しかし、高校生にもなった妹と手を繋いで歩くのは馴れたものではない。
 
 だから俺は込み上げる気恥ずかしさをそのまま口にした。
 
「……なんか、この歳になるとちょっと恥ずかしいな」
 
 俺は直葉の顔を見ていれなくなって視線を逸らす。
 
 直葉は最初は驚きに目を見開いたが、すぐ顔を赤らめた。
 
「……ありがと」
 
「……どう致しまして」
 
 俺たちは最初こそ無言だったが、そのまま仲良く手を繋いで家まで帰った。学校ではどうだの、アメリカの親父がどうだのと他愛のない話に花を咲かせて。
 
 まるでそのときだけは、幼い頃に戻った、そんな気分だった。
 
 
 
 
 次の日。学校から帰った俺はリビングで冷蔵庫に買ってきた野菜類を詰め込んでいる直葉に先にALOで待っていると伝えて自室のベッドに転がり込み、アミュスフィアの電源を入れ、いつものようにアミュスフィアの輪状のヘッドギアを被る。
 
「あれ……? ALOにログインできない……」
 
 いつもならロード画面が表示されるはずなのに、何故か接続エラーになってしまう。アミュスフィアが壊れたか?いや違うな。ALOの定期メンテナンスか?いや違う。そうじゃないなら……、そうじゃないとしたら。
 
 残された答えは一つしかない。
 
「ユイっ。いるか?」
 
 俺は慌てつつ、据え置きPCのマイクに向かって話しかける。
 
『はい、どうしたんですか? パパ』
 
「ちょっと調べて貰いたいことがあるんだけど、いいか?」
 
『そんな慌ててどうしたんですか? 何かあったんですか?』
 
「ああ、実は……」
 
『パパ……?』
 
「……もしかしたらALOがなくなってるかもしれないんだ」
 
『ALOが……なくなったかもしれない?』
 
「俺も信じたくはないんだけどログインできないんだ。理由は多分それしかない……と思う」
 
『そんな……』
 
「でも、まだあくまで予測だ。だからユイ、調べてくれるか?」
 
『はい。少し待ってくださいね』
 
 そこで一旦ユイとの会話が途切れる。しばらくしてユイは震える声で話し始めた。
 
『パパの推測は正しかったです。本当に……ALOがなくなってます……』
 
「な……っ」
 
 予測はしていても一番最悪な事実を肯定されると言葉が出ない。
 
『でも、変です』
 
「何が変なんだ? ALOが予告もなしになくなってることがか?」
 
『いえ……。なくなってるというのはあまり正確ではないですね。正確にはALOのサーバーは存在するのですが、ALOへの直接ログインだけができなくなっているんです』
 
「それって、ALOの管理者側の不手際が原因か?」
 
『それが、そうとも言い切れません。これを見てください』
 
 ユイはPCの画面に四つほどのウィンドウを展開させる。
 
「これは……」
 
『はい。ALOだけじゃありません。同時に他のVRMMOもログインができない状態になっているみたいですね』
 
 画面に映し出されたウィンドウには、GGOなど他のVRMMOが次々ログイン不能になっているという記事。どれも速報の為、詳しい情報は載っていないのが痛いが、逆に今判明していることは全て重要だと言っても過言じゃないだろう。
 
「一体、どういうことだ……?」
 
『考えられるのは二つですね。ALOを始めとする《ザ・シード連結体》規格のVRMMOが外部から全てハッキングされてしまったか、あるいは、外部から各VRMMOに向けたログインを妨害されているか……どちらにせよ、外部からの犯行と見て間違いないですね」
 
「そんなことができるのか?」
 
『できるとすれば、腕の立つ超ハッカーか、……私のようなAIプログラムだけです』
 
 ユイは途中まで言いかけてから途切れ途切れになり押し黙ってしまう。
 
 恐らくユイはもしそのプログラムが自分と同じようなAIであることを信じたくはないのだ。自分と同じ存在がこんな事件を起こしたとして、そいつを敵に回すことになれば自分の立場がなくなってしまうのでは、と危惧したのだろう。
 
「……大丈夫だ、ユイ。もしそんなヤツがいたとしてもユイはユイだ。お前は俺たちの子供だって言ったことは変わらないよ」
 
『パパ……!!』
 
 俺がアスナとSAO内の自宅で保護したとき、ユイはデスゲームと化したSAOプレイヤーたちの負の心によって自我を崩壊させるまでに至っていた。まるで幼子のようにパパ、ママと手を伸ばしてくるユイを見たとき俺はどうしようもなくやるせない気持ちに襲われた。だから俺はせめてこの娘の……ユイのそばにいようと決めたのだ。
 
 そしてそれはユイがAIだったと解ってからも一つとして変わってない。
 
「だから、取り敢えずこの状況をどうにかする方法を考えようぜ」
 
『はいっ!! ……パパ、大好きです!!』
 
 ユイが『大好き』と言ってくれたことに俺は恥ずかしくも嬉しくなる。
 
 間もなくして後ろからかなりのボリュームでノック音が聞こえてきた。
 
「お兄ちゃん大変っ!! ALOに行けなくなってるっ!!」
 
 どうやら一足遅く直葉も状況に気が付いたようだ。それも、かなりの慌てっぷり。あの慌て癖はどうにかできないものかな。
 
「ふぅ……、やれやれ。スグ、いいぜ」
 
 もの凄い勢いでドアが開く。
 
「お兄ちゃんっ、どうしょう…っ!!」
 
 直葉は涙目で俺の肩にしがみついてきた。
 
「解った、スグ。まずは落ち着け」
 
「……うん」
 
 直葉は俺の肩から手を離す。
 
『そんなこと言ってパパだって、さっきまで大慌てだったじゃないですか』
 
「いや、ユイ。それはだな!!」
 
 直葉は一瞬きょてんとして次の瞬間、目を細めた。
 
「ははぁ~ん。お兄ちゃんも慌ててたんだ」
 
 得意気になった直葉は少し質が悪い。
 
 ことに俺は話を逸らす。
 
「いや……と、とにかく、今から皆に招集をかけてくれないか?」
 
「あ、話を逸らしたぁ。……って全員招集って何をするつもり?」
 
「えっと、声をかけやすいのはアスナ、リズ、シリカ、あと学校違うけどシノンもかな。クラインは平日で働いてるし、エギルも店があるし無理だろうなぁ。ま、取り敢えずその四人を家に呼んで作戦を立てる。そして全員で乗り込む」
 
「何処に……?」
 
 俺はにぃーっと笑みを作った。
 
「全てが一つになった夢世界だよ」
 
 俺の言葉に直葉は僅かに目を見開くと、こくんと頷いた。
 
 
 
 
 直葉が皆に片っ端から連絡を取ってくれている間、俺はいきなり出す着信音に少々ビビりながら電話に出た。
 
「キリト君、話聞いたよっ!!」
 
「なんだ、アスナか……」 
 
「何よ。携帯にかけてるんだから、名前が着信表示されるでしょ」
 
「……いや、そこまで見てなかった」
 
「もう……。今電車から降りたから、もう少しで着くからね」
 
「それなら、迎えに行こうか?」
 
「ううん、ちゃんと道は解るから大丈夫だよ」
 
「解った。気をつけてこいよ」
 
 俺はアスナとの通話を切ると机の上に携帯端末を無造作に置いた。「はぁ」とため息を吐いて椅子の背もたれに体重を預ける。
 
 これからどうするのか、この問題が俺の頭の中を掻き乱す。勢いで皆を集めようとしている反面、集まったところで解決できるものなのかという疑問が出てくるのだ。しかし、勘、というやつだろうか。何故かこの状況は自分たちに向けられている気がする。
 
 俺は遠目で白い壁紙しかない面白みのない壁をぼーっと見つめていた。直後、インターホンのチャイムが鳴る。
 
「こんにちは!」
 
「こんにちは、キリトさんっ!」
 
「リズに、シリカもっ!! 来てくれたのか?」
 
 リズベット/篠崎里香と、シリカ/綾野珪子はどうやら二人で仲よく来てくれたようだ。なかなかお目にかかれない私服姿が目を引く。
 
「なーによ。リーファがすぐ来てくれって言うからビックリしたわよ」
 
「そんなこと言ってますけどリズさん、……あとあたしも。呼んでくれたのが凄く嬉しかったんですよ?」
 
「よ、余計なこと言わないっ!!」
 
 里香は顔を真っ赤にしてあたふたする。
 
「はは……詳しいことは中で説明するから」
 
「う、うんっ。それじゃ……」
 
「お邪魔します」
 
 二人はそう言って靴を揃えて家に上がる。
 
「私もいい?」
 
 その声の主は閉まりかけたドアが止め、隙間からその顔を覗かせた。 
 
「シノンっ!!」
 
「こんにちは。一応リアルでは、久しぶりね」
 
「そうだな。……あ、シノンも上がってくれ」
 
「ありがと」
 
 シノンこと朝田詩乃も来たことで残るは、あと一人。
「さて、あとはアスナだけか……」
 
 明日奈はもう来てもいい時間だがまだ来ない。
 
 道にでも迷っただろうか。俺はそう思い、家を出た。
 
 
 
 
 家を出てすぐの曲がり角から声がした。
 
 明日奈とパーカーのフードを深く被った謎の男が何か話しているようだが、明らかにいい雰囲気ではない。
 
「おい、お前確かレクトの社長のとこの娘だろ?」
 
「……はは、人違いではないですか?」
 
 明日奈は引きつった顔で半歩、後退さりする。
 
「とぼけんなよ、なぁ……閃光?」
 
 明日奈は目を見開く。
 
 閃光、それを耳にした俺は無意識に駆け出した。
 
 明日奈が《閃光》と呼ばれていたことを知るのはSAO生還者だけだからだ。つまり、リアルでの襲撃。
 
アスナっ!!」
 
「キリト君っ!?」
 
「フッ、黒の剣士もいたのか……」
 
 男は微笑とともに呟いた。
 
 俺は明日奈と男の間に入って男を睨む。
 
アスナになんの用だ?」
 
「詭弁だな。別に俺は閃光に用があっただけだ」
 
「用……だと?」
 
「まあ、いい。そのうち解る」
 
 男はそう言い残し立ち去った。
 
「……そのうち解る……」
 
 男の言った意味はわからないがもうアスナに接触してくることはないことを祈りたい。
 
「キリト君、わたし……怖かったよ……」
 
 明日奈はわなわな泣きながら俺の胸に顔をうずめる。
 
 俺はすすり泣く明日奈の髪の毛を優しく撫でた。
 
「ごめん……。怖い思いさせて。俺が駅まで迎えに行けばよかったな」
 
「ううん。キリト君の所為じゃない」
 
「俺、君を守るって約束したのに……」
 
「キリト君はわたしを守ってくれたよ。助けにきてくれて……ありがとうっ」
 
 笑顔を作りながらも目から溢れ出す涙を止められない明日奈に俺はそっと手を回す。
 
「……!!」
 
「……アスナは強いんだな」
 
「そんなことない。わたし……怖かった。キリト君に嫌われるのが怖かったの。本当はちょっとしたことで涙が出ちゃうくらい弱いのに、キリト君が求めているのは強いわたしなんだって、ずっと……」
 
「そんなことない。確かに、いつも見ていたアスナは強くてどんなことにも冷静だったけど、俺はそんなアスナだけを好きになったんじゃない。……SAOで俺、アスナが側に居てくれるだけで凄く安心した。圏内事件のとき俺は言ったはずだぜ。あとから好きな人の違う一面に気付いて、そこも好きになれたら二倍だって。だから、これから俺はアスナのこと二倍好きになるよ」
 
「キリト君……」
 
 俺は今できる限りの一番の笑顔をした。
 
アスナ。辛いことも、嬉しいこともお互いに共有できたら嬉しいな」
 
「ふふっ。キリト君、大好きだよ」
 
 明日奈と俺の唇が触れ合う。傷つく痛みを分かち合うように、お互いの気持ちを確認し合うように、強く。
 
 俺はそのまましばらく明日奈を抱きしめていた。
 
 
 
 
「ちょっとキリト、ずいぶんと遅かったじゃないの?」
 
 明日奈を連れて家まで戻ってきた俺は早速、里香に咎められる。
 
「そうよ。アスナさん迎えてに行ったのは解ってたけど少し遅過ぎるんじゃない?」
 
 と直葉。
 
「えっと……そのことも含めて話があるんだ」
 
 
 俺はALOや他のVRMMOがログイン不能状態になっていること、原因は外部の人間の犯行である可能性があること、アスナが襲われたことを話した。全てを説明し終えるにはおよそ三十分を要した。
 
「そんな……アスナさんが狙われるなんて」
 
 珪子は恐怖に腕を抱える。
 
アスナ、その男に覚えはあるの?」
 
 と詩乃は訪ねたが明日奈は首を横に振った。
 
「でも、何かありそうよね……」
 
「何がだ? リズ」
 
アスナを襲った男とログイン不能の件は繋がっているような感じがするのよ」
 
「そうだよ、お兄ちゃん。だって、アスナさんがレクトの社長の娘だって知ってて接触してきたのも引っかかるし……」
 
 それには俺を含めて全員が頷く。
 
「同一犯だとすると目的はなんなのかしら」
 
 詩乃は腕を組んで唸り出す。他も同様に各々考えているようだ。一頻り考えたあと、俺は一つの結論に至る。
 
「シノン、レクトが《アライアンス・ゲート》っていうアミューズメント施設に物凄い投資をしたのは知ってるか?」
 
「勿論よ。そこで新しいVRMMOの実験を……ってまさか」
 
「そのまさかさ。この一連の事件、同一犯と考えると犯人が狙っているのはアスナじゃなく、《AAO》――《アライアンス・オンライン》だと見て間違いないだろう」
 
「全VRMMO統合型VRMMO……」
 
「そうだ。多分、ヤツは《ザ・シード連結体》その全てをシェアするつもりなんだ」
 
「なんのために……?」
 
「さあな、そこまでは俺も想像しかねる」
 
「キリトさん……」
 
「なんだ? シリカ」
 
「思ったんですけど犯人が狙っているはずのAAOはまだ発売もダウンロードも始まってないですよね?」
 
「いや……そこが俺たちの強みなんだ」
 
「え?」
 
「ヤツは今世界に存在するVRMMOの全てを手にした……」
 
「ダメじゃない」
 
「り、リズ、話は終わってないぞ。……こほんっ、つまりだ。ヤツの計画はたぶん本来ならこれでよかったんだ。だけど全てを手に入れたはずがそうじゃなくなった」
 
「でもさっき、今世界に存在するVRMMOの全てを手にしたって……」
 
「そう、そこだ。ヤツにとっては計画にないイレギュラーな展開だったんだろうさ。これから誕生するAAOは。そしてAAO自体俺たち側にあると言っていい」
 
「どういうこと? キリト君」
 
アスナ、現在AAOのメインサーバーを所有しているのはレクトだ。そしてこっちにはアスナがいる」
 
 そこまで言ってわかったのか、明日奈は苦笑する。
 
「わたしがなんとかAAOを稼動するための許可を取って中からどこかのフィールドにいる犯人を探し出す……そういうことね」
 
「ああ、それしか、犯人に接触する手はない……と思う」
 
「でも……」
 
 直葉がおずおずと手を挙げる。
 
「いくら統合型でも、ALOやGGOのログインができない今、世界に入って探す……なんてできるの?」
 
「できないのは直接ログインだけだってユイは言ってた。つまり、AAOを介してならアクセスできる可能性はある。AAOは本来、コンバートしないで同じゲームに在駐するようなプレイヤーでも他のゲームの人たちと交流できるようにすることを目的としているからな。新たにALOとかに通じる扉を作り出せるはずだ」
 
「なるほど」
 
 里香たちも同じことを思ったらしいが解決して貰えたようだ。
 
「そうと決まれば、話は早いですよ。キリトさん」
 
「そうね、もう選択肢は一つしかないじゃない?」
 
 リズベットの言葉に全員が頷く。
 
「お兄ちゃんっ」
 
「キリト」
 
「キリト君っ」
 
 どうやら俺たちのやることは、一つのようだ。
 
「じゃあ、行こうか。俺たちの大切なものを取り返すために」
 
 
〈続く〉

ソードアート・オンラインSS インラタクト・ソウル 第1章

Sword Art Online SS Interact Soul 

 
 
 1
 

 俺――桐ヶ谷和人は、一睡もできずにそのまま朝を迎えてしまった。
 
 昨日は夜遅くまでALOでアスナ、リズベット、シリカ、クライン、エギル、リーファ、シノン、そしてユイのいつもの顔ぶれが揃い、大所帯でアインクラッド三十二層の迷宮区攻略イベントに挑戦した。何故そうなったかと言えばリズに俺の片手直剣を鍛えてもらうためであり、シノンの弓を造ってもらうためのレアインゴット獲得のためである。
 
 数ヵ月前、シノンはALOで新たなキャラクターを作成した。そこでシノンは種族は猫妖精族、武器は弓を選択したのは良かったがいつまでも初期装備なわけにもいかなかったのでリズに新たに造ってもらう約束をしていたらしい。そのときタイミングよく今回のイベントクエストの話が舞い込んできたのだ。俺は新しく剣が欲しくなってきたところだったので、『だったら俺の剣も……』と頼んでみると、一瞬呆れた表情をしたがアスナは『……キリト君たら……もうっ』と言いながらも首を縦に振ってくれた。
 
 早速、翌日に仲間を募って挑戦したのだが、イベントボスにかなり苦戦し、ギリギリのところで俺のシステム外スキル《剣技連携》を駆使しながら放った最後の一撃、単発重攻撃技《ヴォーパル・ストライク》が命中してなんとか倒したのだった。そしてレアインゴットといえば量が少な過ぎて辛うじてシノンの弓が造れる程度だったので俺の剣の話は無惨に散った。ユイは『パパが頑張ったおかげでシノンさんの弓が造れるんですよ。パパがいなかったらこのボスは倒せなかったです!』と励ましてくれたが、内心なかなかに寂しい思いをした。
 
 そのあと皆と別れ、俺はこうして自室のベッドに横になっているのだが、昨日は時間が過ぎた。ちょうど土曜日だったから良かったものの、これが平日の月曜日だったら学校なんて眠くて行けたもんじゃない。
 
 俺は気怠い体を起こして階段を降りていく。下では何やらガタガタ世話しなく音がしている。その音を鳴らす主は俺に気付くとにぃっと笑顔を見せた。
 
「あっ、お兄ちゃん、おはよう。朝ご飯もうすぐできるから」
 
「今日はスグの当番だっけ?」
 
「ううん。お母さん、仕事からまだ帰って来てないから」
 
「そうか。でも、お前だって昨日はイベントクエで遅くまでALOに行ってたからあまり寝てないだろ」
 
「大丈夫。なんか眠かったはずなんだけど全然寝つけなくて」
 
「それは俺も同意する」
 
 俺の妹、スグこと桐ヶ谷直葉は戸籍上は妹となっているが、実は従妹なのだ。それが原因でちょっと前には一悶着あったが、今は普通に生活している。
 
 直葉は料理をテーブルの上に置くと椅子に座る。
 
「早く食べようよ」
 
「うん」
 
 俺は直葉に促されて椅子に座る。
 
 テーブルの上にはトーストがすでに二枚用意され、コーンスープ、目玉焼きベーコン、ミニトマトにポテトサラダまである。朝にしてはなかなか充実したラインナップだ。
 
「でスグ。今日は日曜日だし、俺も暇だから出かけないか?」
 
「ほ、本当にっ!?」
 
 直葉はテーブルから身を乗り出し、目を輝かせる。その瞬間。
 
「あ、あああっ!! あちぢっ!!」
 
「ちょ、お前……っ!!」
 
 見ると直葉は乗り出した拍子にテーブルの上の食器に手を掛けたらしく、ごろんと一回転したカップから中のコーンスープが零れて右手に直撃していた。
 
「あっ、……うぇっ、ううう~~っ」
 
 直葉は熱かったのか、今にも泣き出しそうに顔を歪ませる。
 
「うっ。ちょっと待ってろ。今、水持ってくるから」
 
 俺は素早く冷蔵庫から氷をかき集めてボウルに詰め込み、水を入れて直葉にさっと差し出した。
 
「んっ……、あ、ありがとう、お兄ちゃん」
 
 氷でキンキンに冷えた水の中に手を突っ込んだまま直葉は尚も痛そうだが、多分このままにしておけば痛みは引いていくだろう。一応、少し心配だし一応病院に連れて行こうか。
 
「大丈夫か? 痛いだろうし、今日は出かけないで……」
 
「行くもんっ!!」
 
 と直葉は即断言した。
 
 しかし、今年で十六にもなるはずの妹からよもやそんな言葉が出るとは。
 
 俺は少々呆気に取られたが、また話を戻す。
 
「うーん、ならいいけど。……じゃあ、スグはどっか行きたいところとかある?」
 
「うんと……ね。あの最近できたばかりのアミューズメント施設あるじゃない? そこに行きたい……かなぁ」
 
 直葉が言うアミューズメント施設とは何処かのベンチャー企業がおよそ四億もの投資をして建てたという馬鹿でかいドーム型の建造物のことだろう。
 
 確かあそこには実験を兼ねてアレがあるはずだ。俺も見に行きたかったし。いい機会かな。
 
「うん。じゃあそこで決まりな。九時には家を出れる用意しといてくれよ」
 
「解った」
 
 直葉は大急ぎで片付け始める。
「あぁ、スグ。そんな急がなくても……」
 
 俺が忠告したときにはもう遅く、盛大な音を立てて食器が爆散する。
 
「ああああ……。どうしょう?」
 
「しょうがないヤツだなぁ。ちょっと待ってろよ。今、掃除機持ってくるから」
 
 俺が惨劇の後始末を済ませ、直葉が支度が終わった頃には時計の針が正午を指し示していた。
 
 
 
 
 
 
「ここが……」
 
「うん。まあ、大きいってことは知ってたんだけど――」
 
 目的地である大規模アミューズメント施設の前までやってきた俺たちはいきなり呆気に取られた。何故なら。
 
「――こんなに大きいなんて知らなかったよ……」
 
「ああ……、サイズ感が予想外すぎる」
 
 見た目、東京ドームにも見えるそれは見た目の話であってサイズの話ではない。大きさで言えば東京ドームの倍はある。側面の外装は全面ガラス張りで真新しい輝きを放っている。
 
 いつの間にこんなでかいものを……。
 
 しばらくそんな感じで立ち尽くしていたが、不意に何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 
「……ねぇ、ねぇったら……っ!!」
 心地の良い透き通る声。その時点で俺は百%確信した。かつてSAOで戦いのパートナーとし、妻とした俺の最も大切な人。
 
アスナっ!?」
アスナさんっ!?」
 
 俺と直葉が同時に振り向くと、やはりそこには見知った顔があった。
 
「なっ、何よっ!! いきなり」
 
 明日奈は俺たちがあまりに驚いたので、少し後退る。
 
「や、やあ、アスナ。いきなり声がしたからびっくりしたよ」
 
「さっきからずっと呼んでたんだけどね」
 
 明日奈は可愛らしい蝶ネクタイの付いたチェックのシャツに白いカーディガンを合わせて、ボトムに赤のプリーツスカートという格好をしていた。それはなんとなくあの頃の《KoB装備》にも似ていてとても似合っている。
 
 ファッションに疎い俺でさえ、その姿に思わず見とれてしまう。
 
「あの……アスナさん。今日はどうして……」
 
 直葉は何か言いたそうに口ごもり俺を見る。如何にも『アスナさんも誘ってたの?』という目だ。
 
「そ、そうだ。アスナ、今日はどうしてこんなところに来てるんだ!?」
 
「何、わたしがここに来たらそんなにヘンなの?」
 
 明日奈は心外そうに目を細める。
 
「いやいや、ヘンとかそういうことじゃなくってだな……」
 
「キリト君こそなんでここにいるのよ?」
 
 明日奈はじぃーと見つめてくる。そのはしばみ色の瞳は限りなく澄んでいて、とても綺麗だ。
 
 あまりにも明日奈が見つめてくるので若干言葉が覚束なくなりながらも返答する。
 
「えっと、お、俺は……スグがここに来てみたいっていうのもあってさ。アスナは?」
 
「あれ、もしかして知らない? このアミューズメント施設……《アライアンス・ゲート》はレクトが建てたものなの。今日はお父さんに頼まれ事をされてね」
 
 しばしの沈黙。
 
「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇええっ!?」」
 
 そして二人して大絶叫。
 
「ま、マジか……。彰三氏、やるな……」
 
 彰三氏というのは、つまるところアスナ、結城明日奈の父、結城彰三のことであり、大企業レクトの社長のことである。明日奈は「ふぅ」とため息吐く。
 
「わたしも、びっくりしちゃって。お父さん、珍しく張り切ってたんだけど……まさか…」
 
 そう言いながら明日奈は目の前のアライアンス・ゲートを見やる。
 
「でも、ここ話題性はあるだろ? 確かここにはアレがあるはずだ。……なんて言ったっけな……」
 
「《ザ・シード連結体》規格のVRMMO同時起動システム導入型VRMMO稼動実験、でしょ?」
 
「そっ、そうそう。そして稼動実験されているのが、《アライアンス・オンライン》――通称《AAO》なんだよな。言わば、唯一の全VRMMO統合型VRMMO。それが正式稼動すれば、アバターをそのままに能力値とかアイテムとかも引き継げるし、全世界が一つの世界になったVRMMOだからコンバートしなくても他のゲームのフィールドで遊べるんだぜ!? しかも、そのシステム上ならソードスキルとかが共通システム化するらしいし……」
 
 俺が興奮気味にまくし立てていると、直葉は俺を訝しむように咳払いした。冷たい目線が突き刺さる。
 
「もしかして、お兄ちゃん……あたしがここに行きたいって言ったときスンナリOKしたのって……」
 
「はい……。否定できません」
 
「もう……っ」
 
 直葉はそっぽを向いて唇を尖らせた。
 
 それを見ていた明日奈は苦笑いを浮かべている。
 
「スグ、機嫌直してくれよ。別にそれだけが目的だった訳じゃないんだ」
 
「別に怒ってないもん。……ただ、ちょっとムカついただけだもん」
 
「ごめんなさい……」
 
 俺は深々と頭を下げておく。
 
「……もういいから。あっ、そうだ。ずっと訊きたかったんだけどさ。《ザ・シード連結体》は今までも何度か聞いたことあったんだけど、そもそもの《ザ・シード》って一体なんのことなの?」
 
 そういや、スグには話してなかったな……。スグにも知っておいて貰ったほうがいいだろうし……ま、いい機会かな。
 
「《ザ・シード》っていうのは俺が茅場晶彦から受け取った圧縮プログラムパッケージなんだ」
 
 
 SAOから帰還したあと、俺は同じく現実に戻ってきているはずのアスナが戻らずにALOの世界樹に吊された巨大な鳥籠の中に幽閉されていることを知り、ALOの世界に飛び込んだ。そこで運よくリーファ――直葉と出会えたおかげで世界樹のある央都アルンまでなんとか行き着けた。そしてアスナを捕らえていた妖精王オベイロンこと須郷伸之を倒すことができたのは茅場晶彦がGM権限を行使させてくれたからこそなのだ。つまり、茅場はなんらかのロジックであの場所に存在していたのだ。そして茅場は俺に謎のファイルを寄越し、こう言った。『それは、世界の種子だ』と。
 
 あとから解ったことだが、それは《ザ・シード》という名を冠する末恐ろしいものだった。SAOサーバーを自律制御していた《カーディナル》システムを整理し、小規模なサーバーでも稼動できるようにダウンサイジングしただけではなく、その上を走るゲームコンポーネントの開発支援環境をもパッケージ化した。簡単に言えば、回線のそこそこ太いサーバーを用意し、パッケージをダウンロードして、3Dオブジェクトを設計、もしくは既存のものを配置し、プログラムを走らせば、それだけで世界が一つ誕生する訳だ。俺は悩んだ末、エギルにインターネット上でバラまいてもらうことにした。そして次々と新たな世界が誕生していったのだ。俺がシノンと出会ったGGO――ガンゲイル・オンラインもその一つだ。
 
 しかし《ザ・シード》規格のVRMMOはある共通システムが自動的に存在することになった。それがゲームのキャラクターデータを能力値そのままに別のゲームに移すことができる、コンバートという機能である。ただ、コンバートすると所持しているアイテムや金は消えてしまうので、また戻ってくる場合は誰か安心できる人にそれらを全て預けておかないと帰ってきたときものすごく寂しくなるが。
 
「――つまり《ザ・シード連結体》はコンバート機能を持つ《ザ・シード》規格のゲームの総称で……」
 
「《ザ・シード》は今のVRMMOの元……言わば、世界の種なんだね」
 
「そゆこと。まあ、ALOはまた別だけどな」
 
「確か、ALOはSAOのコピープログラム上で動いてるんだっけ?」
 
「おっ、よく知ってるなぁ」
 
「えへへ…」
 
 直葉は嬉しそうにはにかんだ。逆に今のややこしい説明でよく理解できたなと俺が感心させられる。
 
「そういやスグ、昨日は…」
 
 俺の言葉を遮るかのように急に左耳から激痛が走る。何者かに思いっきり耳を引っ張られたのだ。
 
 そして大体の予想はつく。
 
「いだだ……っ!! あ、アスナっ!!」
「いつまでそうやって話し込むつもり?」
 
「いだだっ、痛いから離して……っ!!」
 
 明日奈はずっと榧の外だったことに怒っているのか、一向に離してくれない。
 
 俺は悲しくもそのまま引きずられるように大規模アミューズメント施設、アライアンス・ゲートに入場することとなった。半ば強制的にアライアンス・ゲートの入場口を潜った俺はやっと解放された耳を撫でる。
 
「うぅ……」
 
 そんな俺には見向きもせず、明日奈はすたすたと俺の遥か前を歩く。
 
「なんか……、ごめんね。お兄ちゃん……」
 
「……いや、スグの所為じゃないよ。悪いのは俺だ」
 
「お兄ちゃん……」
 
 直葉は俺を慰めようとしてくれたが、なんとも言えない罪悪感が胸に広がる。
 
「……まぁ、折角来たしな。楽しもうぜ」
 
「うん」
 
 俺たちは二人並んで色々なアトラクションの間を歩いていく。
 
 入場したときは全く目に入らなかったが、ここには物凄い数のアトラクションが設置されていた。オーソドックスなメダルゲームやUFOキャッチャーから、カートレース用のトラックやバスケットコート、ボーリングなどが所狭しと隣接している。
 
「キリト君~~っ!! 遅いよぉ!!」
 
 少し離れた場所で明日奈が手を振っている。
 
 どうやら機嫌を直してくれたみたいだ。俺は少し安堵する。
 
「ああ、悪い悪い」
 
 俺と直葉は少し急ぎ足で明日奈の元へ駆けつける。
 
「キリト君、なんでさっきわたしが怒ったか、解る?」
 
「えっと……長話してアスナさんを長い間待たせたからでしょうか?」
 
 明日奈はぶんぶんと頭を振る。
 
「解ってるじゃない。……だったらわたしをあんまり待たせないでね」
 
「以後気をつけます……」
 
 明日奈は満足したのかニコッと笑顔を浮かべると、奥の無愛想な鉄の扉を指差した。
 
「じゃあ、行きましょ」
 
 明日奈は俺の腕を掴むと奥へと進んでいく。
 
「お、おいっ。どこに行くんだ!?」 
 
「い・い・と・こ・ろ」
 
「えぇっ!? ちょっとっ……!!」
 
「あ、お兄ちゃん待ってよぅ!!」
 
 追いかけてきた直葉が部屋に入ると明日奈は扉を閉めた。部屋の中は真っ暗。ただ、何かの音が聞こえてくるのだが、それに妙な既視感を覚えるのは何故だろうか。
 
「なあ、何も見えないぞ。アスナ
 
「あっ、ちょっと待ってて……」
 
 カチッと何かのスイッチが入る音がする。いきなり目の前が明るくなり思わず顔を片手で覆いながらも少し目を開き周りを見渡す。部屋は円形に広がっていてそこに存在する、これまた物凄い数のサーバー群に俺は言葉が出なかった。
 
 明日奈はふふっと笑うとこっちに向き直る。
 
「ここは仮想空間プログラミング室。……というかAAOサーバーだけで埋め尽くされてるから実質《AAOサーバー室》ってところね。そして、あそこにあるのが……」
 
「あのカプセルみたいなやつ……?」
 
 明日奈は部屋の中央を見て頷いた。
 
「うん。《ザ・シード連結体》規格のVRMMO同時起動システム導入型VRMMO《アライアンス・オンライン》と同時に開発された実験機《ゲートユニット》」
 
「実験機って、ナーヴギアとかアミュスフィアみたいなハードウェアってことか?」
 
「うん。VRMMOの長時間ダイブを想定してこの形になったらしいわ。医療用《メディキュボイド》と同サイズなのが難らしいけど」
 
「まあ、そうだろうな。こんなに大きなものを家庭用にするのは俺も賭けだと思うし……。でも、こんなものが開発されてたなんて初耳だなぁ」
 
「当然よ。まだ未公開だもの」
 
「えっ? それ、俺たちに見せても良かったのか?」
 
「お父さんは、桐ヶ谷君ならいいって」
 
「そうなのか? なら彰三氏に感謝だなぁ」
 
「ふふっ」
 
 《ゲートユニット》と冠せられたそれは、白を基調としたカプセル型の機械で側面には青色のラインが走っていて、その下に小さく《Gate-Unit》と刻まれている。それが中央に向けて七つも鎮座していた。
 
「おおー、凄……っ」
 
「だよなぁ」
 
 直葉もこれにはそれ以上言葉が出ないようだ。
 
 しかし、デザインも規模もこの前ユイ用に制作した《視聴覚双方向通信プローブ》システムとはレベルが違う。比較しても仕方がないのは確かだが。
 
「まあ、それはそうなんだけどね……」
 
 明日奈は苦笑する。
 
「……?」
 
「これ……ゲートユニットは抜きにしても、この部屋のサーバー群。一体いくらかかってると思う?」
 
「んー、五~六千万ぐらい?」
 
「ぶー。残念ながら不正解。正解は二億よ。に・お・くっ!!」
 
「「二億ぅ!?」」
 
 俺と直葉は揃って仰天する。逆にこれを聞いて驚かないほうが凄い。
 
「に、二億……か。そんだけあったら、まずユイ用PCパーツを替えたりとか、俺の据え置きPCを新型CPU搭載でハードディスクが5TBくらいの凄いやつにできるな……、あとはぁ……って二億もあればもっと贅沢できるのか……」
 
「お兄ちゃん……っ!!」
 
 振り向くと直葉はぎこちなく口元が引きつらせながら、俺を睨んでいた。
 
「あ、あはは……、悪い悪い。あー……でも確か、このアライアンス・ゲート自体に四億もかかってるんだよな?」
 
 俺は直葉から逃げ切るべく、明日奈に話題を振る。
 
「うん……そうだよ。具体的に言うとアライアンス・ゲートのアミューズメント設備を整えるのでもう四億かかっちゃってるから、更に二億かけて膨大なプログラムを許容できるサーバーを新設したらしくてね……」
 
 俺の頭の中でその莫大な額のお金と膨大過ぎるサーバー群が凄い勢いで積み重なっていく。二億のサーバー群にはどうしても本能的に羨ましいと感じずにはいられないが、二億もの額を投資した彰三氏もまた相当なギャンブラーだろう。
 
「ひえーっ、勇気あるなぁ、彰三氏……」
 
「お父さんは未来の先行投資だって言い張ってるけどね。ここは今はまだ情報だけで一般解放してないし、システムプログラム自体が大き過ぎてサーバーだけでこの部屋を丸ごと使っちゃってるから、この設備自体はレクトの研究員さんぐらいしか使ってないの」
 
「そう言えば……AAOは一般に情報公開されているのに、ゲートユニットはなんでまだ一般公開されていないんだ?」
 
「んー、ちょっとスペック調整に手間取ってたから延期されてたんだけど、無事に終わったらしいから来週には情報公開だけはされていると思うけど……。それがどうしたの?」
 
 俺はふふーんと鼻を鳴らす。
 
「じゃあ、一般客は俺とスグが一番乗りって訳だ」
 
「そうね」
 
 明日奈は複雑そうに笑う。
 
「お兄ちゃん、凄いねっ!!」
 
「そうだな。持つべきはレクトのご令嬢だなっ!!」
 
「もうっ!! キリト君っ!!」
 
 明日奈は珍しく膨れっ面になった。
 
「ぷっ、あははっ!!」
 
アスナさんったら……あはっ!!」
 
 俺たちは明日奈があんまりぷくーっと膨れるので堪えきれず笑ってしまう。
 
「もう……、キリト君も直葉ちゃんも……ふふっ!!」
 それから俺たちは笑いあった。
 
 俺も明日奈も直葉も腹を抱えて笑った。
 
 これから起こることなんて考えもしなかったのだ。
 
 全てのVRMMOの世界を飲み込む大事件が今まさに起きようとしていることを。
 
 
〈続く〉

サイトリニューアルしました!

すみません……度重なるリニューアルで申し訳ないです。

見に来てくださっている方には混乱されていることだと思いますが、どうか了承してくださるようお願い申し上げます。
 
今回のリニューアルは更新のしやすさとサイトの見やすさを考慮して変更しています。
さらにSAOSSの続きも引き続き更新していくので楽しみにしてもらえると嬉しいです。
 
本サイトは以前と同様、北山淳の一次創作、二次創作作品を掲載していくものです。
 
これからもWeb road Writer roadをよろしくお願いします!
 
北山淳

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